テーマ2:ゲーム-ソニーはPS5で究極のエンタテインメントを目指す-
1.究極のエンタテインメントとは何か
これは全く私個人の意見ですが、エンタテインメントの究極の姿には2種類あると思います。有名なテレビシリーズである「スタートレック・ボイジャー」には「ホログラム」という遊びがでてきます。未来技術で空気中の分子、原子を再構築して映画やドラマのセットと登場人物を再現し、自分がその映画、ドラマの中の主役や脇役として遊ぶというものです。私は、これがエンタテインメントの一方の極だと思います。
未来技術で空気中の分子、原子から物質を作り出すことは、仮にできたとしても数百年以上先の話だと思います。しかし、疑似体験として映画やドラマの中に入っていくことは技術的に可能になり始めています。プレイステーション5、Xbox series X/Sのような高性能ゲーム機の能力を存分に引き出すゲームは、まさに映画の中で遊ぶ感覚になるゲームになると思われます。
もう一つ必要な技術はディスプレイです。映画の中で主人公を疑似体験するには、10K以降のディスプレイが必要になると思われます。これは10Kから過半数の人の目が錯覚を起こして画面上のものが立体に見えるようになるためです(立体視)。8Kではうっすらと立体視になりますが(人によります)、10Kからははっきりと立体視になる人が増えます。ソニーではテレビについて8K以降のテレビをいつ発売するのか、ロードマップを公表していないため、8K、10Kの発売がいつなのか不明です。ただし、10Kテレビが発売されるときには、ゲームのみならず、エンタテインメントの世界が大きく飛躍するのではないかと思われます。
もちろん、この革命はPS5だけでは無理かもしれません。実は私は3~4年後にPS5の上位機種(PS5Pro?)が発売される可能性があると考えています。CPU、GPUはその場合3ナノのデザインルールになる可能性があります。また、7~8年後にはPS6が出ると考えています。ゲーム機とゲームソフトの技術革新に対して通信の技術革新が追い付かないため、PS5の能力をフルに生かしたゲームソフトをクラウドで配信することは当面不可能と思われます。コンソール(家庭用ゲーム機)はこれからも生き続けると思われます。
2.つまり、中長期ではソニーだと思うのです。
エンタテインメントのもう一つの極は、将棋、囲碁、チェスだと思います。そして、この分野は近年AIを取り入れることによって新戦法の研究が急速に進んでいます。
要するに、エンタテインメントの両極で急速に先端技術を使った進化が進行中だということです。これは今に始まったことではありません。失敗しても謝れば済むエンタテインメントの世界は、歴史的にコンピュータやAIなどの先端技術の実験場だったのです。この傾向は最近になってより速いスピードで進んでいると思われます。
では任天堂はどうかというと、枯れた技術のみを使い先端技術を使わない任天堂は、通常のエンタテインメントとは異なる独自の世界を構築している会社だと思います。任天堂のゲームの歴史を紐解くと、大衆受けしてゲームが大ヒットした時期もあれば、そうでない時期もあります。
後述しますが、日本では遊びの世界に関しては巣ごもりが終わり始めています。巣ごもりが終わった後の任天堂のゲームに対する需要に対して、私は期待できるとは考えていません。また欧州では巣ごもりが再開していますが、深刻な不況の中で果たして1回目の巣ごもりの時のように多くの人々が家庭用ゲーム機を買おうとするのか、私は不透明であると考えています。
これははっきり言って、遊びというもの、ゲームというものをどう捉えるかということにつながることですが、これまでのエンタテインメントの歴史を振り返れば、一般大衆はテクノロジーをふんだんに使った遊びを支持してきました。ソニーのPS5はこれまでのゲーム機から大幅に性能を向上させることによって、これまでとは違うゲームを世の中に出していくことになると思われます。つまり、映画の中に入っていくゲームです。
つまり、中長期投資として2021年のゲーム株を見る場合は、ソニーだと思うのです。
なお、11月にソニー・インタラクティブの幹部の一人がメディアに語ったことによれば、PS4ユーザーがPS5に転換するのに、3年かかるということです。PS4ユーザーは現在約1億人で、今期のソニーのPS5販売台数予想は760万台以上ですから、来期は年間2,500~3,000万台のPS5ハードウェアの供給が期待できると思われます。ソニーの業績に注目したいと思います。
グラフ2 ソニーのゲームサイクル:プレイステーションの販売台数
テーマ3:リアルエンタテインメント-配信は我らの文化を豊かにする-
1.日本ではリアルエンタテインメントが復活しつつある
新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、今年2月から始まった「巣ごもり」ですが、エンタテインメントの世界では6月から段階的に正常化に向かっています。まず、映画館で1席ごとに空席を設けての座席の販売が6月から再開されました。劇場でも同様のやり方で7月頃から座席販売が再開されました。一部の劇場で感染があっただけで、映画館、劇場での感染はなかったため、9~10月から全席販売を再開する映画館、劇場も出てきました。
ただし、感染が怖い観客もあり、客足は映画館、劇場ともに必ずしも芳しいものではありませんでした。映画館が満席になることはまれで、演劇では著名演出家、著名俳優陣の演目であっても当日券がスムーズに買えるという、新型コロナ前では考えられなかった状況が見られました。
この状況を一変させたのが「鬼滅の刃」です。人気漫画を原作とした「鬼滅の刃」のアニメ映画(製作はソニー・ミュージック子会社のアニプレックスなど、配給はアニプレックスと東映)は、10月16日に公開されましたが、大変な人気となり、映画館に人が押し寄せる事態となりました。その結果、「鬼滅の刃」以外の映画も人が入るようになり、日本の映画市場が一気に復活したのです(グラフ3の東宝映画営業部門月次収入の急増は「鬼滅の刃」の配給増加が寄与している。同じく映画興行部門の増加はTOHOシネマでの「鬼滅の刃」興行が寄与している)。
映画の動きが演劇にも好影響を与えると思われます。映画館が大丈夫なら劇場も大丈夫ということです。
次の問題は音楽ライブです。今の政府のガイドラインでは、大声を上げない場合は、会場の収容率100%以内で、収容人数1万人超の場合は収容人数の50%、収容人数1万人以下の場合は5,000人が人数上限となります。また、1,000人以上のイベントの場合は事前に各自治体(都道府県)に相談する必要があります。
私が音楽ライブで注目しているのが、12月18~20日の3日間、日本武道館で開催される「乃木坂46 アンダーライブ2020」です。乃木坂46(レーベルはソニー)のシングルの表題曲を歌っている人たち以外のメンバー(アンダーメンバーと呼ぶ)によるライブです。毎年1回程度、約1万人規模で2日間行うところを、今年は1回5,000人で3日間開催されます(日本武道館の収容人数はライブ開催時で1~1.1万人)。いつものことですが大変な人気で、チケットの一般販売は約5分で売り切れました。感染防止策は国のガイダンスに沿ったものになっており、席の前後左右の間に空席を設けて、声を出しての応援は禁止になっています(なお、このライブは3日間配信も行います)。
レコード会社や芸能プロダクションの中には、感染拡大が止まっていない今の時期のリアルライブに消極的な会社も少なくありません。また、日本での新型コロナウイルス感染症の感染拡大が今後どうなるのかも重要な点です。乃木坂46のライブが感染者を出さずに成功するかどうか注目されるところです。
グラフ3 東宝:映画部門月次収入
2.音楽と演劇で「配信」が普及中
もちろん、今の感染拡大状況を見ると、リアルエンタテインメントの完全復活にはまだ時間がかかりそうな雰囲気もあります。そこで、リアルエンタテインメントを補完する「配信」に注目したいと思います。
実質的に今年2月下旬から始まった巣ごもりの中で、エンタテインメントにとって新しい試みになったのが、音楽ライブ、演劇などのインターネット配信です。それまでは、音楽ライブも演劇も、チケットが入手できなければ一部のリセールサイトで高額転売されているチケット(違法です)をリスクを冒して買うか、諦めるしかありませんでした。しかし、配信が普及してきたことで、臨場感に限界はありますが、好きなライブ、演劇を見ることができるようになりました。
私から見て音楽ライブの配信で、重要な転機となった配信が二つあります。一つは無料配信ですが、「乃木坂46 幻の2期生ライブ」で3月7日にSHOWROOM(アーティスト、アイドルの配信サイト)で配信されました。同日に開催予定だった「乃木坂46二期生ライブ」(収容人数約1万人)が中止になったため、その代わりに開催されたものですが、大盛況で40万人以上が視聴しました。
もう一つ重要なのが、「サザンオールスターズ」(所属はアミューズ)が6月25日に行った有料の無観客配信ライブです。横浜アリーナを借り切って開催されましたが、チケット代3,600円、チケット購入者約18万人、推定視聴者約50万人と大成功しました。このサザンオールスターズの配信ライブが成功したことによって、多くのアーティストの配信への姿勢が前向きなものへ変わったと言われています。
配信には問題もあります。リアルライブに比べるとグッズ類の売れ行きは悪いもようです。また、1つのチケットで数人が視聴する問題もあります。後者の問題は解決が難しいです。一方で、配信の中身は高度化しており、ステージをカメラで単に映すだけのものではなく、比較的大きな会場全体を使って凝った演出をするものが出てきました。また、ファンクラブ限定でアフタートークやアンコールを配信するケースもあります。その場合、チケット代が一般販売よりも高くなります。
リアルライブに比べると、会場警備等の費用がかからないため、採算は大きく悪くはないと思われます。また、リアルライブと配信を組み合わせると、収益の補完になります。実際に、音楽ライブから演劇まで配信を何件か見てみると、リアルライブに行きたくなります。リアルライブと配信は相乗効果があると言ってよいでしょう。
この分野でもソニーが注目されます。また、アミューズ、東宝にも注目したいと思います。