今後の焦点は「内」での完結性を高めつつ、いかに改革開放を進めるか
全会のコミュニケにも明記されていましたが、最近、中国の指導者から「内需拡大」が頻繁に発せられるようになっています。「国内大循環」と対をなす概念であり、方法だと言えるでしょう。
11月19日、APEC(アジア太平洋経済協力会議)商工業界リーダーサミットに出席し、演説した習近平氏は、全会で審議した第14次五カ年計画期間における新たな発展の局面を、「中国自身の発展段階の条件に立脚し、経済グローバル化と外部環境の変化を十分に考慮した上で打ち出した戦略的選択」と定義づけた上で、率先して取り組むべき優先事項を次のように主張しました。やや長いですが、習近平という最高指導者自身による言葉から中国の発展を解釈するという意味で、重要な作業になるため引用します。
「我々は内需拡大という戦略的基点をきちんと押さえることで、国民経済の循環をスムーズに行っていく。近年、中国の市場と資源をめぐる在外発展モデルは悄然と変化している。中国の対外貿易依存度は2006年の67%から2019年の32%まで下がった。経常収支における黒字は、国内総生産比で2007年の9.9%から現在の1%未満まで下がっている。2008年の国際金融危機以来、中国において内需の経済成長への貢献率は7年連続で100%を上回り、国内消費は経済成長の主要な原動力となっている。経済双循環を推進する過程で、中国経済の自主性と発展の質量は明らかに向上していて、新たな発展の局面構築は中国の経済構造の調整と高質量発展の推進という内在需要にも順応している。我々は、供給側構造改革を引き続き深化させ、内需拡大にこれまで以上の労力を注いでいく。生産、分配、流通、消費といった分野をこれまで以上に国内市場に依託するのだ。供給体系の国内需要への適合性を増強することで、需要が供給をけん引し、供給が需要を創造するという一層ハイレベルな動態バランスを形成することが望まれる」
中国共産党用語で分かりにくい箇所もありますが、中国経済全体として、米中対立やコロナ・ショックを受けて不確実性の増す「外」への依存性を下げ、党の統治力を行使できる「内」での完結性を高めるという明確な戦略が具体的データとともに提示されています。
需給関係やサプライ&バリューチェーンを可能な限り国内で完結させるという方針を国家戦略レベルで確定させた意味は小さくありません。今後の焦点となるのは、「内」を重視する中で、いかにして「外」と切り離せない改革開放という国策を推し進めていくかでしょう。
新型コロナ抑制と経済再生の有機的両立を目標とする中国経済は、おおむね回復基調にあるようです。
1~9月のGDPは前年同期比で0.7%増(7~9月は4.9%増)と、今年に入って初めてプラス成長へと転じました。10月の統計を見ると、国民経済に強く影響する飲食業の収益がプラス成長に転じています。
その他いくつかの指標を見ていくと、全国規模以上工業増加値6.9%増(前年同期比)、製造業PMI(購買担当者指数)は51.4、社会消費品小売総額4.3%増(前年同期比)、1~10月のネット小売消費額10.9%増(前年同期比)、固定資産投資1.8%増(前年同期比)、3.2%増(前月比)、10月の対外貿易輸出入額は4.6%増(前年同期比)、うち輸入0.9%増(前年同期比)、輸出7.6%増(前年同期比)、10月の都市部調査失業率は前月より0.1ポイント低下し5.3%…。
これら最新の統計を受けて、11月14日、東アジアサミットに出席した李克強(リー・クォーチャン)首相は、「今年、新型コロナウイルスは中国経済に深刻な影響を与えた。我々はコロナ抑制と経済社会発展工作を統合させ、適宜措置を取ってきた。雇用、民生、市場の主体を保護することで、コロナの影響を最小限に抑えるべく尽力してきた。中国経済は巨大な衝撃の中でも、雇用と経済のファンダメンタルズを安定させ、回復的成長を見せている」と指摘しました。
李発言にもあるように、中央政府が経済の分野で最も重視している指標の一つが雇用です。11月16日、国家統計局の付凌晖報道官が、上記の調査失業率の改善に加え、「1~10月、全国都市部で新たに増えた雇用数は1,009万人で、前年の目標を前もって達成した。雇用情勢は全体的に安定している」と強調したのも、雇用の安定を保障することが、14億の人民を心理的になだめ、社会不安のまん延を未然に防ぐために他なりません。
言い換えれば、経済の成長と雇用の安定は中国共産党にとって、経済レベルにおける国家統治の両輪のような存在であり、そこが保障されることで初めて、自らの正統性が維持できるという確固たる意識を持ち続けているのです。