習近平集権体制でダイナミックかつ安定的な発展を目指す中国

 賛否両論ありますが、昨今の中国共産党は、自らの権力基盤が強固になり、習近平という最高指導者に権力を集中させることで、中国が初めてダイナミックかつ安定的に発展するという考え方を持っています。実際に、全会は、コロナ・ショックを乗り切り、経済を発展させ、共産党の正統性を死守するために、習総書記の権力基盤を一層強化することが不可欠であるという政治的意思を示唆しました。

 全会閉幕後に発表された「コミュニケ」(公報)は、「習近平同志作為党中央的核心、全党的核心領航掌舵」という文言を使いました。前半部分が意味する「習近平を党中央の核心とする」は、2016年の第18期六中全会で、習総書記に党の「核心」という称号が与えられて以来、党の公式文書、声明、談話などを通じて頻繁に使われてきました。一方の後半部分は、目新しい表現。「領航」はパイロット、ナビゲーター、案内人を、「掌舵」は舵取り、操舵手を指します。要するに、核心として全党を引き連れ、中国という国家を特定の方向、未来へと導く指導者という類の意味合いが込められているのです。

 加えて私が注視したのが、新型コロナウイルスの抑制、経済成長、米国をはじめとした西側諸国におけるポピュリズムの台頭やガバナンス力の劣化を受けて、中国共産党がますます自らの政治体制と発展モデルに自信を深め、独自の道を進もうとしている現状です。

 全会は、第13次五カ年計画の期間を経て、達成した成果を次のように羅列しています。

「2020年のGDP(国内総生産)は100兆元を突破する」「農村の貧困人口5,575万人が消滅する」「食糧の年間生産量は5年連続で6億5,000万トン以上に達する」「都市部の新規雇用者数は6,000万人を超える」「基本医療保険は13億人以上、基本養老保険は10億人近くをカバーする」…。

 そして、過去5年の奮闘を経て、「中国共産党の領導と我が国社会主義制度の優勢が一層明らかになった」と結論付けているのです。

 私は、2017年の第2次政権発足以来、習近平政治の特徴と傾向を「内政の保守化」と「外交の拡張化」と整理してきました。もう一つの問題意識が、「政左経右」という言い回しにも体現されているように、政治が保守化する中で、経済の改革や開放政策が推進されるのか。この点は未解決のままです。私自身は、共産党一党支配下にある中国においても、政治が自由や人権、多様性や開放性を相当程度重んじるという前提下で、市場開放、ルールの公平性、知的財産の保護、規制緩和、国有企業改革といった経済分野での進展が初めて顕在化すると考えています。