なぜ今、親子上場の解消が進むのか?

 1990年代には、上場企業が、子会社を上場させるのが大流行でした。当時、子会社を上場させることに以下4つのメリットがあると言われました。

【1】親会社にとって、有利な資金調達となる
子会社を上場させる時に保有株を売り出すと、人気の子会社は高い価格で売れるので、有利な資金調達になる、と言われました。
【2】親会社にとって、子会社の経営権を手放さなくて良い
子会社を上場させても、議決権の過半数を支配していれば、経営権を維持できる、と言われました。
【3】子会社にとって、知名度が上がり、営業や採用で有利になる
上場することで、子会社の士気が上がり、いいことがたくさんある、と言われました。
【4】子会社の自立を促し、子会社が独自の成長を遂げることが可能になる
子会社が、親会社に依存せずに、自前のビジネスを拡大しやすくなります。

 上記のメリットをフルに享受し、見事な成長企業となったのが、前段でお話しした野村総合研究所(4307)などです。

 ところが近年は、親子上場のメリットが低下し、弊害やデメリットが目立つようになりました。特に問題となっているのは、以下4点です。

【1】少数株主との利益相反
親会社の経営戦略にそって子会社を経営することが、子会社の少数株主(親会社以外の株主)の利益に反することもあります。たとえば、子会社に「親会社以外の会社と取引することを制限」したり、「短期的な利益を犠牲にして長期的な成長のための投資を進めさせること」が、子会社の少数株主の反発を招くことがあります。

 極端な例では、親子上場企業が、互いにライバルとなる例すらありました。かつて親子上場だった、積水化学(4204)積水ハウス(1928)などがその例です。住宅事業で、親子が激しく競合する不思議な関係となっていました。今は、親子関係を解消しています。 

【2】重要子会社の経営判断の遅れ
少数株主の意見も尊重しなければならないため、親会社が望む経営戦略が進めにくくなることがあります。本業にとって重要な会社にTOBをかけて完全子会社とするのは、時代の流れです。

【3】利益の一部(少数株主持分)が外部流出
上場子会社が高収益会社の場合、親会社は100%保有した方が連結利益を高めることができます。子会社の一部を少数株主に保有させてしまうと、その分、連結利益が低下することになります。

【4】割安な子会社または親会社が買収のターゲットとなる
親子上場では、主導権のない方の会社が、買収価値から見て割安な価格に据え置かれることがあります。事実上の経営権が、親会社(または子会社)に握られているため、少数株主に経営権を行使する余地がほとんどないためです。

 買収価値から見て割安な状況に、子会社(または親会社)を放置しておくと、敵対的買収がかかることもあります。かつて、フジHD(4676)とニッポン放送は、親子上場でした。

 ニッポン放送が親会社で、フジHDが子会社でした。力が弱く、買収価値からきわめて割安に放置されていたニッポン放送に、2005年ライブドアが敵対的買収を仕掛けたため、フジHDは相当な苦労をしました。今は、フジHDは、ニッポン放送とのねじれた親子関係を解消済みです。

 子会社や親会社を割安なまま放置するわけにはいかないと骨身に染みたのか、2012年にフジHD(当時はフジ・メディアHD)は、当時割安な価格に放置されていた上場不動産子会社のサンケイビルに対してTOBを実施し、完全子会社としています。

 こうした事情から、近年は、本業にとって重要な子会社は上場させたままとせず、TOBをかけて完全子会社とする例が増えています。

 こうして親子上場の解消が急速に増える中、新たに子会社を上場する例は稀となりました。ただし、今では珍しくなりましたが、今でも新規に子会社を上場させる例はあります。ソフトバンクグループ(9984)による、ソフトバンク(9434)の上場などです。