来年は「新型コロナ」から「米中関係」に市場の関心が移ると予想

 株式市場の目下の関心は新型コロナ一色。欧米および日本での感染拡大に歯止めがかからない中、急ピッチで進む予防用ワクチンの開発に期待が高まっています。

 ワクチンの大量供給が実現して経済が正常化するのが先か、あるいはワクチンが間に合わないうちに感染爆発によって経済が麻痺してしまうのか、どちらか分からなくて不安が高まる状況、というのが、今でしょう。

 こんな時に言うのは変に聞こえるかもしれませんが、来年、株式市場の関心は徐々に新型コロナから離れ米中対立に向かうと、私は予想しています。

 コロナに経済も株式市場も痛めつけられる状況がまだまだ続きそうですが、それでも来年になればワクチンや治療薬、効果的な治療方法、短時間でできる低コストの検査方法などが開発され、日本・米国・欧州・中国などで、コロナが経済に与えるマイナス影響は少しずつ小さくなっていくと予想しています。

 来年コロナが収束するにつれて、逆に深刻になっていくと考えられるのが、米国と中国の対立です。今年は、米大統領選があったので、トランプ大統領は株式を暴落させないように気を使って米中対立の激化を「寸止め」していたと考えられます。コロナ禍で世界が苦しむ中、米中対立激化でさらに世界経済にダメージを加えるわけにはいかなかったという事情もあります。

 来年1月からは、国際協調を重視する民主党バイデン氏が大統領に就任することがほぼ確実です。中国も米国も、しばらくは対立を激化させずに歩み寄りの姿勢を見せる可能性があります。

 ただし、それでもいずれ米中対立は激化せざるを得ないと私は予想しています。それが、残念ながら、歴史の流れと考えられます。米中対立は、20世紀の米ソ冷戦に匹敵する長い冷戦になる可能性があります。

 以上の理由により、来年は、新型コロナより米中対立に株式市場の関心が向かうと予想しています。米中関係に関するニュースが、株式市場を乱高下させることが続くと思います。さまざまな流言飛語に惑わされないためには、しっかりと中国政治の現状を把握して分析する必要があります。

 皆様に、ぜひオススメしたいのは、11月1日に楽天証券経済研究所に加入した客員研究員・加藤嘉一の連載を、続けて読んでいくことです。香港在住の中国政治スペシャリストで、現地取材にもとづいて中国政治の裏表をしっかり解説します。日本のメディアに出ない貴重な情報が得られます。

 今月は、既に、以下3本の記事をトウシルに掲載しています。以下の記事に加え、今後の連載も、ぜひ続けて読んでいただきたいと思います。

11月18日:バイデン~習近平ラインで米中対立は緩和するか?中国のシフト調整
11月12日:中国アント、史上最大規模のIPO延期の理由。ジャック・マーは誰を怒らせた?
11月4日:現地レポ:米大統領選、高投票率の裏事情。中国はトランプ、バイデンどちらが得?

 さて、それでは次に、今日のテーマ「TOB(株式公開買付け)がかかってもおかしくないと私が考える親子上場の子会社」について書きます。

親子上場の解消が、近年、急速に進んでいる

 近年、親子上場企業(親会社と子会社が両方とも株式市場に上場している企業)が、親子上場を解消する動きが広がっています。以下2つのいずれかの方法によって、親会社と子会社の両方が上場している状態を解消する動きです。

【1】完全子会社化
親会社が子会社に対してTOBを実施して子会社株をすべて取得し、完全子会社(親会社が100%所有する子会社)にする。
【2】親子関係の解消
親会社が子会社株をすべて売却(または第三者に事業譲渡)して親子関係を解消する。

 最近の例では、NTT(9432)NTTドコモ(9437)に対してTOBを実施し、完全子会社化を目指していることが話題になっています。TOBは無事成立しました。

 NTTは今後、TOBに応募しなかったNTTドコモの少数株主の保有株もすべて買い取る手続きを進めます。NTTドコモは、今後、NTTの完全子会社となり、上場廃止となる見込みです。

 今年5月には、ソニー(6758)が金融子会社であったソニーフィナンシャルHD(当時ソニーが発行済株式の60%を所有する上場子会社)に対してTOBを実施しました。TOBは成立し、ソニーフィナンシャルは完全子会社となり、上場廃止となりました。

 逆に、子会社を売却する動きも広がっています。今年3月、昭和電工(4004)日立製作所(6501)の上場子会社であった日立化成に対してTOBを実施。日立化成は上場廃止となり、昭和電工の完全子会社となりました。日立製作所が、日立化成について、本業との関連が小さいと判断して親子関係を解消し、昭和電工に売却することを決めたためです。

 日立製作所(6501)は、過去に多数の上場子会社、あるいは、上場関連会社を保有していましたが、近年、急速に親子上場の解消を進めました。本業の一部と考える子会社にはTOBをかけて完全子会社にしました。

 2009年には、当時上場子会社であった、日立情報システムズ・日立ソフトウェアエンジニアリング・日立システムアンドサービス・日立プラントテクノロジー・日立マクセルの5社に対してTOBを実施し、完全子会社としました。

 一方、日立化成・日東電工(6988)のように本業との関連が薄いと考える子会社・関連会社は売却を進めました。総花経営とも言われる総合電機の多角化路線と決別し、競争力の高い事業に特化する「選択と集中」を進めるためです。

 野村HD(8604)も、上場子会社の保有株の売却を、少しずつ進めてきました。野村総合研究所(4307)野村不動産HD(3231)などの上場子会社がありますが、長い年月をかけて少しずつ売却を進めてきました。

 野村総合研究所は、もともと野村證券のシステム開発や調査を担当していた完全子会社でした。最初は、野村證券にビジネスのほとんどを依存していました。

 野村證券は、野村総合研究所が野村グループ以外の顧客を幅広く取って成長できるようにするために、野村総合研究所を上場させ、野村色を少しずつ低下させていきました。その戦略が奏功し、野村総合研究所は、金融業界や流通業界から幅広くビジネスを取るIT業界の成長企業となりました。

 野村不動産HDについても同じです。2017年に一時日本郵政(6178)への売却交渉を進めていたと報道が出ました。ところが、この交渉はその後中止となり、売却は実現しませんでしたが、将来的に、野村不動産HDを売却していく方向は変わっていないと推定されます。

なぜ今、親子上場の解消が進むのか?

 1990年代には、上場企業が、子会社を上場させるのが大流行でした。当時、子会社を上場させることに以下4つのメリットがあると言われました。

【1】親会社にとって、有利な資金調達となる
子会社を上場させる時に保有株を売り出すと、人気の子会社は高い価格で売れるので、有利な資金調達になる、と言われました。
【2】親会社にとって、子会社の経営権を手放さなくて良い
子会社を上場させても、議決権の過半数を支配していれば、経営権を維持できる、と言われました。
【3】子会社にとって、知名度が上がり、営業や採用で有利になる
上場することで、子会社の士気が上がり、いいことがたくさんある、と言われました。
【4】子会社の自立を促し、子会社が独自の成長を遂げることが可能になる
子会社が、親会社に依存せずに、自前のビジネスを拡大しやすくなります。

 上記のメリットをフルに享受し、見事な成長企業となったのが、前段でお話しした野村総合研究所(4307)などです。

 ところが近年は、親子上場のメリットが低下し、弊害やデメリットが目立つようになりました。特に問題となっているのは、以下4点です。

【1】少数株主との利益相反
親会社の経営戦略にそって子会社を経営することが、子会社の少数株主(親会社以外の株主)の利益に反することもあります。たとえば、子会社に「親会社以外の会社と取引することを制限」したり、「短期的な利益を犠牲にして長期的な成長のための投資を進めさせること」が、子会社の少数株主の反発を招くことがあります。

 極端な例では、親子上場企業が、互いにライバルとなる例すらありました。かつて親子上場だった、積水化学(4204)積水ハウス(1928)などがその例です。住宅事業で、親子が激しく競合する不思議な関係となっていました。今は、親子関係を解消しています。 

【2】重要子会社の経営判断の遅れ
少数株主の意見も尊重しなければならないため、親会社が望む経営戦略が進めにくくなることがあります。本業にとって重要な会社にTOBをかけて完全子会社とするのは、時代の流れです。

【3】利益の一部(少数株主持分)が外部流出
上場子会社が高収益会社の場合、親会社は100%保有した方が連結利益を高めることができます。子会社の一部を少数株主に保有させてしまうと、その分、連結利益が低下することになります。

【4】割安な子会社または親会社が買収のターゲットとなる
親子上場では、主導権のない方の会社が、買収価値から見て割安な価格に据え置かれることがあります。事実上の経営権が、親会社(または子会社)に握られているため、少数株主に経営権を行使する余地がほとんどないためです。

 買収価値から見て割安な状況に、子会社(または親会社)を放置しておくと、敵対的買収がかかることもあります。かつて、フジHD(4676)とニッポン放送は、親子上場でした。

 ニッポン放送が親会社で、フジHDが子会社でした。力が弱く、買収価値からきわめて割安に放置されていたニッポン放送に、2005年ライブドアが敵対的買収を仕掛けたため、フジHDは相当な苦労をしました。今は、フジHDは、ニッポン放送とのねじれた親子関係を解消済みです。

 子会社や親会社を割安なまま放置するわけにはいかないと骨身に染みたのか、2012年にフジHD(当時はフジ・メディアHD)は、当時割安な価格に放置されていた上場不動産子会社のサンケイビルに対してTOBを実施し、完全子会社としています。

 こうした事情から、近年は、本業にとって重要な子会社は上場させたままとせず、TOBをかけて完全子会社とする例が増えています。

 こうして親子上場の解消が急速に増える中、新たに子会社を上場する例は稀となりました。ただし、今では珍しくなりましたが、今でも新規に子会社を上場させる例はあります。ソフトバンクグループ(9984)による、ソフトバンク(9434)の上場などです。

親会社からTOBがかかってもおかしくないと筆者が判断する5社


 銘柄名を挙げる前に、注意事項があります。

 これから挙げる5銘柄は、いずれも「筆者が親会社の経営者だったら、出資比率を大幅に高めるあるいは完全子会社化を目指す」と判断する上場子会社・関連会社です。完全子会社にできれば連結経営に有利と、私が判断しているものです。

 ただし、親会社の経営陣が同じ考えを持っているとは限りません。また仮に親会社経営陣がそう考えていたとしても、子会社の経営陣や大株主が、それを受け容れるとは限りません。いろいろな障害があって、完全子会社化は実現できないかもしれません。

 私の考えとは全く逆に、親会社が子会社の株の売却を目指すこともあり得ます。つまり、これから述べるのは、あくまでも筆者個人の考えで、親会社経営者の考えではありません。そのことを理解して、私の考えを聞いてください。

 以下5銘柄について、簡単に、コメントします。

親会社が完全子会社化を目指してもおかしくないと筆者が判断する5社


【1】三菱UFJリース(8593)
【2】アコム(8572)

 三菱UFJリースは、三菱UFJ FG(8306)にとって重要なグループ会社です。三菱商事などと共同運営しています。三菱UFJ FGは、金利低下によって、商業銀行業務の収益性が低下する中、海外ビジネスの拡大や、ユニバーサルバンク経営(投資銀行業務・信託・証券・リース・消費者金融・カードなどへの多角化)によって、収益拡大を目指しています。

 三菱UFJリースは、三菱UFJ FGにとって重要なグループ会社です。三菱商事などと共同運営していまは、三菱UFJ FGにとって戦略的に重要なグループ会社と考えられます。大手銀行のリース子会社は、かつて、ファイナンスリース中心の展開で、銀行の迂回融資くらいの位置づけしかありませんでした。

 ところが、近年は、モノの知識が重要なオペレーティングリースを拡大しており、低金利時代の多角化として、重要性が増しています。三菱UFJリースは、三菱UFJ FGにとって重要なグループ会社です。三菱商事などと共同運営していまは国際展開をしており、海外収益の拡大にも寄与しています。戦略的に重要なので、商社との共同運営を続けつつ、さらに出資比率を高めた方が良いと私は考えます。

 アコムは、消費者金融の子会社です。消費者金融は、銀行がこれまで手掛けてこなかった、低信用の無担保ローンで収益を稼ぐビジネスで、大企業与信で稼げなくなった時代に重要なビジネスの一角と考えられます。既に、三井住友FG(8316)は、2011年に、当時上場子会社だったプロミスに対してTOBを実施し、完全子会社にしています。三菱UFJも、アコムを完全子会社にする選択肢もあると、考えています。

【3】    イオンフィナンシャルサービス(8570)
【4】    イオンモール(8905)
 ともに、イオン(8267)の上場子会社です。イオンは、この他にもたくさんの子会社を上場させていますが、イオンのビジネスモデルにとって、この2社は特に重要なので、完全子会社にした方が良いと考えます。
 ただし、小売業が親会社として、金融・不動産子会社の上に立つのは、必ずしも望ましくないと思います。セブン&アイHD(3382)のように、持ち株会社(仮にイオンHDとします)を作り、その下に、イオンリテール、イオンフィナンシャルサービス、イオンモ-ルなどの子会社を兄弟会社として並べるほうが、連結経営が効率的に行えると考えます。
 連結収益の重要な一部を占めるという意味では、ウエルシアHD(3141)も完全子会社にした方が良いと思いますが、それ以上にコア事業のビジネスにとって重要な上記2社の取り込みが先だと思います。
 イオングループについては、後日、別途詳しくレポートを書いて、私の考えを説明します。

【5】    ダイビル(8806)
 商船三井(9104)が子会社化したのが、ダイビルです。商船三井の本業である海運業が変動性の激しいビジネスなので、連結経営を安定させるために、ダイビルに投資し、不動産事業を拡大したと考えられます。
 商船三井にとって、さらなる経営安定化のためにダイビルも完全子会社にした方が良いと筆者は思います。ダイビルが保有する賃貸ビルの含み益対比で、ダイビルの株価が割安になっていると考えますので、このままにしておくのも、あまり良いと思えません。