カスタマイズド・ベンチマーク

 また、問題を出してみよう。「インデックスではない、ベンチマークはあるか?」。次に、「あるとすると、どのようなベンチマークに実用的な意味があるか?」も考えてみて欲しい。

 まとめて出題すると、2番目の出題が1番目の問題の正解を示唆してしまうが、インデックスとして存在するもの以外のベンチマークを指定して、パッシブ運用を行うことは可能だし、現実に行われることがある。

 ベンチマークは、事前に銘柄と投資ウェイトが分かる具体的な「ポートフォリオ」であればいい。

 たとえば、割安株運用で運用する「Value投資」を委託する場合に、スポンサーが自分で割安株によるポートフォリオを作ってベンチマークとして与えて、「これを上回るパフォーマンスで運用してみよ」と言って、Value投資が得意だと標榜するファンドマネジャーに資金運用を委託すればいい。

 ベンチマークを指定することによって、運用されるべきポートフォリオの性質をより細かく指定することができる。運用を引き受けたファンドマネジャーは、「ベンチマークを上回ことが出来るような情報・判断が無い場合は、ベンチマークに近づく」ことがリスクを縮めることにつながるので、ベンチマークの選択によって運用をある程度コントロールすることができる。また、ファンドマネジャーの「腕」を評価するにあたって、パフォーマンス評価をより厳密に行うことが出来ると考えることも出来る。

 こうした目的で、特に作成して与えるベンチマークのことを「カスタマイズド・ベンチマーク」と呼ぶ。

 この様にして運用されたポートフォリオのパフォーマンスとTOPIXとの関係を考えると、カスタマイズド・ベンチマークとTOPIXとの差はスポンサーの責任と貢献によるものであり、実際に運用されたポートフォリオとカスタマイズド・ベンチマークのパフォーマンスの差が運用を任されたファンドマネジャーの責任と貢献だ、という切り分けになる。

 カスタマイズド・ベンチマークを上手く使うと、運用の判断・行動の責任と貢献を適切に区分することができるようになる。良く出来たベンチマークを与えられると、ファンドマネジャーは大変だ。

 実際の年金基金には、プロといえる運用者が殆ど居ないし、ものぐさな人が多いので(失礼!)、基金がカスタマイズド・ベンチマークを独自に作るようなことは、日本では、聞いたことがない。時々使われるのは、既製品の株価指数だが、いわゆるスタイル・インデックスと呼ばれる、Valueインデックス、Growthインデックスだ(正式には、Russell/Nomura Total Market™ Value インデックス、Russell/Nomura Total Market™ Growth インデックス)。

 これらは、PBR(株価純資産倍率)の高低で、TOPIXを半々に切り分けたものだ。率直に言って、PBRの高いGrowth側のベンチマークに対しては、ファンドマネジャーとして「勝ちやすそう」な印象を覚えるし、このベンチマークはポートフォリオとして優れているようには思えない。但し、本当に勝てるかどうかは、やってみなければ分からないのが運用という仕事の怖いところだ。