二極化する政治と社会。メディアも分断に加担

 いくつか印象的だった場面があります。一つが、投票を呼び掛ける行動です。今回私が取材をした民主党幹部によれば、昨今の政治情勢では、投票率が上がれば上がるほど民主党に有利に働くそうです。

11月3日、ワシントンDC市内。木の板で店舗を守った店舗の中には、「選挙当日店は閉めますが、投票に行ってください!あなたの一票が重要です」と呼びかけるポスターを張っているところもあった。今回の選挙がアメリカの未来にとってどれだけ重要かという市民の政治熱が表れていた。

 バラク・オバマ氏が初の黒人大統領になった2008年の選挙と、ヒラリー・クリントン民主党候補がトランプ候補に負けた2016年の選挙の間には、投票率で1.5%の差があり、これが一つの敗因だった、だから、とにかく有権者に投票所に行くように総動員で呼び掛ける、というのが民主党陣営の戦術だったようです。

 実際に、バイデン候補の応援にかけつけたオバマ元大統領は「VOTE」と書かれたマスクをして登場していました。

 街のいたるところに「VOTE」のプラカードやポスターが掲げられていましたし、民間企業であるグーグルが、選挙当日「GO VOTE」を検索のトップページに持ってきて、UBERも同様に選挙に行くことを呼び掛けると同時に、コロナ禍という事情も考慮したうえで、自宅から投票所への往復を通常の半額で運転するサービスを掲げていました。

 道端でも、当日店を閉めた企業が投票を呼び掛けたり、市民が有権者に無料で食料を提供したりという光景も見られました。バイデン候補、トランプ候補どちらに投票するかは有権者個人の問題ですが、私はこれらの光景から、米国民一人一人の政治への執着心、参加意欲、そしてそれぞれの愛国心を感じました。

11月3日、ワシントン市内の投票所「Omni Shoreham Hotel」前にて。「民主主義はデリシャスだ!」という政治主張をする市民が、投票を促すという観点から、有権者たちに自発的に食べ物を無料で配っていた。

 次に、今回選挙をめぐる一つのキーワードであり続けた「レイシズム」、すなわち人種差別問題です。至る所で見られたのが、「Black Lives Matter」(BLM)です。

 黒人の生命の尊さを呼び掛ける運動であり、ホワイトハウスの北側にはBLMを主張するストリートまでできていました。その付近では、人種差別をするトランプ候補を徹底批判するプラカードやポスターが掲げられ、一つの空間を為していました。

 人種差別・衝突、社会の分断、格差の拡大など、昨今の米国社会構造の変化が政治問題化し、大統領選挙に直接的な影響を与えるまでに深刻になっている現状を肌で感じました。

「分断」は、メディア報道にも露呈されていました。私はこの期間、民主党系では主にMSNBC、共和党系ではFOXを観てきましたが、キャスターもコメンテーターも、最初から結論ありきで、あからさまに味方する候補、政党を応援し、相手候補に対する嫌悪感や敵対心を隠そうとはしませんでした。

 印象的だったのは、MSNBCのリポーターが、「BIDEN、HARRIS」と書かれたマスクを着けながら生中継で話していた光景です。「ちょっとやり過ぎではないか」と感じざるを得ませんでした。

 裏を返せば、それだけ米国の政治や社会が二極化し、経済政策、社会福祉、環境政策、エネルギー政策、とりわけ国内問題においては両政党間、有権者間で合意形成ができなくなっているということです。そして、メディアは疑いなく分断を煽り、米国の劣化に加担していると感じました。

11月3日、ワシントンDC市内、アダムズモーガンにて。コロナ禍の選挙ということで、当日だけでなく、郵便投票と期日前投票も可能であり、その方法も明記されている。このプラカードは市内の至るところで見られた。