(1)お金がいるときが売り時
率直に言って、上記の5項目で素直に賛成できるのは、この意見だけだ。結論だけを知りたい読者は、「これだけが正解だ」と覚えておくといい。
お金は、将来使うために運用して増やすのであって、必要なときに取り崩して使えないと考えることは不適切だ。
つみたてNISAをiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)と比較した場合の長所として、60歳以前でも資産を引き出して使うことができる流動性の高さがある。
杓子定規なアドバイザーなら、老後のお金の必要性を考えると、つみたてNISAの資産に手を付けるようでは生活設計が良くないと教えを垂れるかも知れないが、お金が必要になる場合は、人生の途中であっておかしくない。この場合に、借金をするよりは、つみたてNISAの資産であっても、取り崩す方が合理的な場合が多いだろう。
ただし、つみたてNISAの取り崩しには潜在的なコストがあることを忘れてはいけない。つみたてNISAのメリットは、運用で得た収益に課税されないことだが、資産の取り崩しはこれを放棄することを意味する。
運用資産の期待リターンを年率5%とすると、通常ならその約2割に課税されて4%になってしまうところを、5%そのまま手に入れることができるのがメリットだ。大雑把に年率1%のメリットがあり、このメリットを残りの運用年数分放棄するのがつみたてNISAの資産を「売る」ことの大まかな潜在コストだ。
各種の運用口座がある中で、つみたてNISAの口座は、通常最後に換金すべき口座である場合が多いだろう。また、つみたてNISAの口座の中でも、税制優遇の残存期間が短いより古い積立資産から売却するのが合理的だという順番になる。
一般NISAは最大5年の税制優遇なので、今のところ、つみたてNISAの資産よりも先に売却することが合理的な順番になることが多いだろう。
なお、厳密には、損得に「買値」が影響する場合がある。買値が高くて評価損が出ている資産の場合、期待できる非課税メリットが小さいので先に売ることが比較上「得」になる場合があるだろう。
比較計算をするためには、買い付け時期別の資産を期待リターン(例えば5%)でつみたてNISAの満期まで複利運用できた場合に受けることができる非課税メリットを比べることになり、なかなかに複雑だ。
ただし、大まかには、「お金がどうしても必要なときには売却してかまわないが、つみたてNISAの資産は売る順番が最後になる」と覚えておくと十分だろう。