50代の3割が「資産がほとんどなし」

――それでは退職後のお金、老後のお金は、どんなふうに捉えればいいのでしょう。

野尻 目標額の設定の仕方や達成の方法の前に、老後の資金に関してやっかいに感じていることをお話しします。

 それは退職年齢に近づいている人のお金の準備が意外にできていないということです。人生100年時代(※2)と言われるようになり、誰もが大変だと感じているのに、自分だけは85歳くらいで人生が終わると思っている。最後の10年分の用意ができていないのです。

※2:国は「人生100年時代構想会議」を発足させている。中間報告書には海外の研究(*)によれば「日本では、2007年に生まれた子供の半数が107歳より長く生きる」と推計されていると書かれている(*:Human Mortality     Database, U.C. Berkeley[USA] and Max Planck Institute for     Demographic  Research[Germany])

 そこでセミナーなどでは、せめて95歳までは生きることを前提に準備をしてください、そうしないと「老後難民」になりますよと、お話ししています。

 日本は年金制度を始めとするセーフティネットが比較的充実しているので、一部の特別な事情がある人を除いて「老後難民」になるわけがないと国の役人すら考えているし、実際にフィデリティ退職・投資教育研究所のアンケートでも50代の3割が「資産がほとんどない」と回答。もし、その3割の人たちがセーフティネットを利用したら、それを支える若い世代の生活と老後はどうなるのでしょう。悲惨なものになるのは明らかです。

≫≫老後資金の備えを解説
「『老後難民』にならないための延金術」はこちら

 一方、20代から30代前半の若い世代は、老後なんてはるか彼方、かすんで見えないでしょう。だからといって安心してはいけません。緩く見積もっても、公的年金支給額は現在の見込額の20%減額(支給年齢の引き上げも検討されている)、健康保険の自己負担は3割(現在は一般・低所得者は70~74歳2割負担、75歳以上1割負担)になることを想定しましょう。こうした事態を考慮して、収入と医療費なども含めた支出を計算して、今から覚悟をしておきなさいと言いたいのですが、ピンと来ないのは仕方ない。自分ゴトになるのは40代、50代になってからでしょうね。