<今日のキーワード>

「マーケット・キーワード」では、弊社のアジア株式運用者が運用業務を通して気付いたり、感じたことを“運用者の視点”として定期的にお届けしています。急速かつダイナミックに変革が進む、中国・アジア地域の経済やマーケットの“今”を、独自の視点でお伝えできれば幸いです。今回のテーマは、コロナ下の中国の景気や企業業績の『K字回復』とはいかなるものなのか、そして今後の株式市場への影響についてです。

【ポイント1】景気の新しい見方『K字回復』

 7月下旬のNHKニュースで、景気の『K字回復』という見方が紹介されていました。景気や企業業績の回復を表現する時に、V字回復という言葉はこれまでも頻繁に用いられてきました。文字の形が示す通り、底打ちからの回復が力強いことを表現しています。この他に、L字は底這いがダラダラと続いて回復感が出てこないこと、U字は緩やかに底打ちする様を表現する時に使われます。対してK字とは、Kという文字が右上と右下に向かう線で出来ていることをとらえ、コロナ下で好調な業種と不調な業種の差が鮮明になっていることを意味しているとのことでした。さすがに説明が必要な解釈であり、若干無理があるとは思いますが、経済事象や特定の政治家の政策等に対するネーミングに敏感なメディア業界としては、放っておけないネタだったのかもしれません。

【ポイント2】業種による好不調の格差は鮮明

 新型コロナウイルスとの戦いが続く中で、業種によって好不調がはっきりと分かれている点は日本での生活実感にもフィットしていると思います。個人消費に関連する分野では、外出や県をまたいだ移動の自粛などで外食や宿泊、運輸など旅行・レジャー関連需要が冷え込む一方で、Eコマースやデリバリーサービス、オンラインゲームなど巣ごもり関連は堅調です。個人消費以外の分野でも、テレワークの普及などを背景にデジタル・トランスフォーメーション(進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものに変革すること)に関連するサービスや機材を提供する企業が業績を伸ばす一方で、従来型の重厚長大産業などは景気減速の直撃を受けています。こうした傾向は中国でも同様ですが、業種による好不調の格差は産業の構造変化がもたらしている側面もあり、今後の新型コロナウイルスの動向にかかわらず、中長期的に持続する可能性が高いとの見方が強まっています。

【今後の展開】中国株式市場の今後について

 香港や中国本土の株式市場でも、コロナ後、あるいはコロナとの共存社会における勝ち負けを織り込む動きが顕著です。業種別にみると、情報技術やEコマースなど消費関連、ヘルスケア関連等に資金が流入する一方で、イノベーションへの期待値が低い従来型の製造業や国有企業の株価の上値は重い状況が続いています。香港証券取引所は、こうした構造変化を株価指数に反映すべく、7月下旬からハイテク関連30銘柄で構成されるハンセンテック指数の算出・公表を開始しました。金融と不動産の有力企業が多いイメージが強かった香港株式市場ですが、米国に上場する中国のハイテク企業の香港回帰上場が続いていることもあり、数年後には有力ハイテク株が集積する世界有数の成長市場に変貌を遂げている可能性が高そうです。