2.6月から全社受注が回復。業績回復の兆しが見え始めた

 会社側は、2021年3月期の会社予想業績、売上高1兆4,300億円(前年比6.8%減)、営業利益2,100億円(同17.1%減)を変更しませんでした。ただし、業績回復の兆しが表れており、月次受注高は5月の前月比5~10%減を底として6月同10~15%増、7月同35~40%増と回復中です。7月は、それまで大きく悪化した自動車向けを含む全用途向けの受注が回復しました。

 今後を展望すると、不透明感はあるものの、7-9月期は新型iPhoneの量産開始やそれ以外の5Gスマホの増産による電子部品需要の回復、5G基地局向けの増加、自動車向けの回復、パソコン、サーバー向けの増加持続などが期待できます。2021年3月期通期では、会社予想に対して上乗せが期待できそうです。楽天証券では、今期2021年3月期を売上高1兆4,500億円(前年比5.5%減)、営業利益2,200億円(同13.1%減)と予想します。下期も営業減益が続く可能性がありますが、会社予想よりは減益幅が縮小すると予想されます。

 また、来期2022年3月期は業績回復が予想されます。5Gスマホ、パソコン、サーバー向けのMLCCの増加、電池事業の赤字縮小、樹脂多層基板の増加などが予想されます。

 なお、楽天証券の今期、来期業績予想は前回予想と同じですが、前提となる製品別売上予想は前回予想とは異なります(表3)。楽天証券では、今期、来期のコンデンサの売上高を前回予想よりも大きく予想しましたが、圧電製品は5Gスマホの普及に伴ってSAWフィルタの需要が減る見込みなので、減収が続くと予想しました。

 ただし、リスクもあります。村田製作所のリスクは、第1にMLCCの需給関係です。グラフ1~3は、経済産業省生産動態統計から採ったセラミックコンデンサの生産数量、生産金額の前年比と生産単価の動きをみたものです。2020年1月から5月の動きを見ると、生産数量の伸びが大きいことがわかります。4、5月はやや鈍化しましたが順調に伸びています。ただし、生産単価が下落したことによって、5月の生産金額は前年比マイナスとなりました。生産数量の大きな伸びは、新型コロナ禍によるサプライチェーンの混乱に備えるための在庫積み増しが2~3月にあったためと思われます。そして、4、5月の前年比の鈍化はこの反動と、自動車向けの減少、5Gスマホ向けの鈍化によるものと思われます。また、生産単価の下落は、年初からの民生向け(スマホ向けなど)、自動車向けの値下げによるものと思われます。

 セラミックコンデンサの中で多くを占めるMLCCはあらゆる電子機器に多用されるため、その生産動向は景気動向を敏感に反映する傾向があります。また、村田製作所にとっては、MLCCは最も採算の良い製品なので、この生産動向には注意が必要です。

 第2のリスクは、5Gスマホの中身の変化です。村田製作所は4G時代に高成長しましたが、これは、4G時代のスマートフォン、特にiPhoneが世代を重ねるたびに高性能化、高価格化し、内部に装着する村田製電子部品も、採算の良い高級部品が数多く装着されるようになったためです。

 ところが、5G時代は4G時代と異なり、チップセット(CPUに他の半導体を組み合わせたモジュール)の高性能化と競争激化が進んだ結果、端末価格5万円未満の廉価版、5~10万円の普及機種が、10万円以上の高級機種に比べて通信機器としても小型コンピュータとしても遜色のない性能を発揮すると思われます。違いは5Gの受信速度、送信速度が違うことと(廉価版、普及機種の受信速度は現在実測で推定1~2Gbps。これに対して高級機種は同じく3~4Gbps。ただし、いずれも今の4Gよりも大幅に速い)、カメラの性能ぐらいです(廉価版、普及機種はカメラの眼が1個または小径のカメラを2~3個搭載。高級機種は大口径の眼を3個程度搭載。カメラに関心のない人は眼が1個で十分だろう)。もしそうなれば、5Gスマホの中心は4G時代のように高級機種ではなく、廉価版や普及機種になる可能性があります。

 その場合、スマホ内部の部品も高級部品を大量に使うのではなく、中級品を使う比率が多くなる可能性があります。5Gスマホの生産台数、販売台数が多くなれば、電子部品の数量増加で村田製作所の利益が増える方向に向かうことが出来ると思われますが、そうなるかどうかが今後の注目点です。

グラフ1 セラミックコンデンサ生産数量:前年比

単位:%、出所:経済産業省生産動態統計より楽天証券作成

グラフ2 セラミックコンデンサ生産金額:前年比

単位:%、出所:経済産業省生産動態統計より楽天証券作成

グラフ3 セラミックコンデンサ:生産単価

単位:円/個、出所:経済産業省生産動態統計より楽天証券作成

3.今後6~12カ月間の目標株価は、8,000円を維持する

 今後6~12カ月間の目標株価は、前回の8,000円を維持します。前回同様、楽天証券の2022年3月期予想EPS 298.5円に想定PER25~30倍を当てはめました。今も株式市場から高い評価を受けていますが、この高い評価が今後も続くと思われます。一定の投資妙味を感じます。

TDK

1.2021年3月期1Qは8%減収、26%営業減益

 TDKの2021年3月期1Qは、売上高3,093億9,300万円(前年比8.1%減)、営業利益184億4,000万円(同26.2%減)となりました。

表4 TDKの業績

株価    11,600円(2020/8/13)
発行済み株数    126,322千株
時価総額    1,465,335    百万円(2020/8/13)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は当社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。