グングン高値を更新する金(Gold)
7月のドル全面安の象徴であったユーロと金(Gold)ですが、ユーロは1.19台に乗せた後は足踏み状態。ところが、金は9年ぶりに1,900ドル台の最高値を更新し、さらに一気に2,000ドルにも乗せてきました。8月に入っても高値を更新し、11日には金にも調整が入りましたが、高値圏は維持しています。
金の宝飾品需要などはコロナ禍の影響で激減していますが、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の不確実性によって、安全資産としての金に注目が高まっています。さらに経済低迷によるデフレ、低金利、地政学リスクの高まりなども後押しし、金に大量の資金が流れ込んでおり、3,000ドルを目指すような勢いです。注目したいのは、金の円建て価格も7,000円(*)に乗せ、40年ぶりに高値を更新したことです。
(*)金価格は国際価格では「1トロイオンス=何ドル」と表示されますが、国内では「1g=何円」と表示されます。トロイオンス(略称オンス)は貴金属などに用いられる質量の単位で、1オンス=約31.1035グラム。
金投資を続けていた筆者
私事になりますが、社会人になって数年が経ったころ、投資を始めようと思い立ち、株式ではなく金に投資をしました。それが40年前です。つまり、金の高値で投資を始めてしまったのです。資産の核となるのは「金」という信念は変わらなかったため、2,000円に下落した時も、1,000円台に下落した時も買い続けました。そして高値づかみの6,000円台の金は、絶対に売らず、利食いできるまで持つと決めましたが、まさか40年かかるとは思いませんでした。従って、今回7,000円になった時は非常に感慨深いものがありました。
しかし同時に、7,000円になったことは、これまでのドル/円の相場の見方を揺るがす出来事ではないかとも思い始めました。
例えば、1980年1月に金の国際価格が850ドルの当時最高値を付けた時の金の円建て価格は約6,500円で、ドル/円は240円台です。金はその後300ドルを割れ、円建て価格は1,000円近くまで下落しました。金の下落とドル/円の円高が進んだことが背景ですが、長らく金は低迷し続け、資産としての金は輝きを失っていました。
しかし、2008年のリーマン・ショック前後から金は見直され、2011年9月に1,900ドル近辺まで上昇し最高値を付けました。しかし、金の円建て価格は約4,700円で高値を更新していません。その時のドル/円は77円台だったからです。金が最高値を付けたにもかかわらず、円建て価格は高値を更新できなかったということは、金よりも円の価値の方が強かったということであり、ドル/円相場を見る際にその感覚はずっと持ち続けていました。
(注)ドル建て、円建ての金価格は田中貴金属工業(株)の価格推移を参考
今回、金の国際価格が9年ぶりに1,900ドル台を抜け、円建て価格も40年ぶりに6,500円を抜けました。ドル/円は106円です。
この40年間、円は金よりも強い、価値ある資産でしたが、40年ぶりに円建て価格の高値を更新したことから、ひょっとしたらこの関係が成り立たなくなってきたのかもしれません。今年、円と金の関係が逆転するのかどうか注目したいと思います。
これまではドル建て金価格が上昇すれば、金上昇はドル安の局面でもあったため、安全資産としてドル/円はそれなりの円高の動きがありました。しかし、金の上昇とともに円建て価格もこのまま上昇するのであれば、円の価値が相対的に弱まっている可能性があります。多少の円高は進むと思いますが、円高の深さを見直す必要が出てくるかもしれません。
果たして現在の金のドル建て価格がバブルの状態だけなのか、それとも円がこの40年間バブルを続けており、その状態が修正されつつあるのかどうか注目です。
円は以前ほど強くなく、相対的に弱くなってくるのではないか、あるいは円の強さが弱まってくるのではないかという観点からドル/円相場に注目したいと思います。あくまで相対的な話であり、現在の水準から円安になるという話ではありません。これまでの経験をベースにした長期的な見方の話であり、金の2,000ドルと円建て価格の7,000円は、それほどの重要な意味を持っていると感じています。