2)音楽分野

 今1Qの音楽分野は、売上高1,771億円(前年比12.5%減)、営業利益349億円(同8.9%減)となりました。音楽制作、音楽出版ともに新型コロナの悪影響を受けました。有料会員制ストリーミングサービスの売上高は増加しましたが、補えませんでした。なお、今1Q営業利益には投資先(韓国のPledisエンタテインメント)株式の売却益65億円が含まれています。

 今期通期も今1Qと同じ傾向が続きそうです。会社側は今期を売上高7,900億円(同7.0%減)、営業利益1,300億円(同8.6%減)と予想しています。

 新型コロナの影響、特に音楽制作への影響は長引く可能性があります。これを補う事業としてライブ配信があります。音楽会社、動画配信会社、プレイガイドなどが事業化していますが、ソニーも6月からライブ配信システム「Stagecrowd(ステージクラウド)」を開始しました。ソニー・ミュージック所属アーティストでも無観客ライブ配信を行って成功するアーティストがでています(例えば、欅坂46、日向坂46など)。今後の展開が注目されます。

 また、スマホゲームでは、「ディズニー ツイステッドワンダーランド」(2020年3月18日配信開始)の課金売上高が増加しています。ただし、ディズニーに支払うロイヤルティも多いもようなので、「Fate/Grand Order」に比べると収益性は劣るもようです。

3)映画分野

 映画分野の今1Qは、売上高1,751億円(前年比5.9%減収)、営業利益247億円(前1Qは4億円)となりました。売上高は、アメリカのテレビ向けドラマ等の番組提供にかかるライセンス収入は増加しましたが、映画館での興行収入の減少、テレビ広告の減少が響き、全体では減収となりました。ただし、映画製作が新型コロナの影響で滞ったため、広告費が減少し、このため大幅増益となりました。

 会社側では2021年3月期を、売上高7,600億円(同24.9%減)、営業利益410億円(同39.9%減)と予想しています。広告費の減少、動画配信業者向けのコンテンツ(映画、ドラマ、バラエティ番組等)の需要が強い状態が続くと思われますが、新作映画、新作ドラマの投入が延期になることで、通期では減収減益が予想されます。

 来期は、動画配信業者向けの増加や、過去作品のデジタル販売(BDやダウンロード販売)が映画分野の業績をある程度けん引すると思われることから、緩やかな業績回復が予想されます。特に、配信は音楽同様今後重要な収益源になると思われます。

4)エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野(EP&S分野)

 EP&S分野の今1Qは、売上高3,318億円(前年比31.4%減)、営業損失91億円(前1Qは251億円の黒字)となりました。このうち、モバイル・コミュニケーション(スマートフォン事業とISP事業)は、売上高942億円(同6.4%減)、営業利益110億円(前1Qは10億円の黒字)となりました。

 スマートフォン事業は構造改革の効果で黒字が定着しましたが、テレビ、カメラなどの従来のエレクトロニクス事業が201億円の営業赤字となりました。新型コロナの影響で、テレビ、デジタルカメラ、オーディオなどが大幅減収となりました。円高デメリットも営業利益に対して93億円発生しました。

 ただし、今2Q以降はテレビ、デジタルカメラの需要が戻り基調にあるもようです。テレビは巣ごもり消費のプラスの影響を受けて回復中です。デジタルカメラも需要が回復しているもようです。スマートフォンも通期で黒字が定着する見込みです。

 また会社側では、新型コロナのマイナス影響を受けたサプライチェーンがほぼ復旧したとしています。

 私見ですが、(ゲーム事業も含めて)ソニーの各製品、サービスはその製品カテゴリーの中で比較的価格が高いものが多いため、ソニーの日米欧各地域の顧客層は中流以上の所得層の人達が多いと思われます。この顧客層が特にアメリカの株高による経済的恩恵を受けていることが、ソニーのテレビ、カメラ、ゲームの各分野に大きな打撃がなかった要因と思われます。実際にそうであれば、アメリカの株高が続く限り、ソニーの業績には下支え要因ができることになります。

5)イメージング&センシング・ソリューション分野(I&SS分野)

 I&SS分野の今1Qは、売上高2,062億円(前年比10.6%減)、営業利益254億円(同48.7%減)となりました。スマホ向け、デジタルカメラ向けイメージセンサーの減収に加え、前期までに行った積極的な設備投資による減価償却費の増加、研究開発費の増加が響きました。

 今期会社予想は、売上高1兆円(前年比6.6%減)、営業利益1,300億円(同44.8%減)です。今2Q以降もイメージセンサー事業の変調が続くと予想されるため、大幅減益が予想されます。

 イメージセンサー事業が変調している要因は、スマートフォン需要が中低価格帯の機種にシフトしているためです。前期まで続いていたスマホカメラの眼の多眼化、大判化の進行が、新型コロナがきっかけとなって、減速したことによります。

 会社側では、この減速は一時的であり、来下期から再びスマホカメラの多眼化、大判化が進む高級機(価格10万円以上)がスマホ市場の中心になると期待しています。

 しかし、会社側の期待通りにならないリスクがあります。5Gスマホは4Gスマホと大きく異なります。4Gスマホは、価格によってチップセット(CPUにグラフィックプロセッサーなど各種半導体を組み合わせたモジュール)の能力に大きな格差がありました。今販売されている4Gスマホの最上位クラスはデザインルール7ナノのチップセットを搭載しています。しかし、格安スマホは14ナノ、あるいは12ナノの2世代前の低価格チップセットを使っており、価格並みに性能は低いものになっています。

 ところが、5Gスマホは、10万円以上の高級機種、5~10万円の普及機種、3~5万円の廉価版(格安スマホ)の全てが現在7ナノチップセットを搭載しています。5Gは機能が複雑で高速処理が要求されるため、現時点では7ナノチップセット搭載で5Gの受信スピードが1Gbps以上で早いか遅いかの違いがあるだけです。つまり、5Gスマホは4万円台の廉価版といえども小型コンピュータとしては4Gスマホの上位機種に並ぶかやや劣るだけの性能をもち、通信機器としては4Gスマホを凌駕する性能をもっているのです。

 従って、5Gスマホのユーザーの中には、普及機種や廉価版のカメラ(眼が3個で小型のイメージセンサーを搭載しているケースが多い)で十分と考えている人が少なからずいると思われます。もしそうであれば、5Gスマホは4Gスマホと市場構造が異なり、廉価版と普及機種中心の市場になり、イメージセンサーにとっては旨みの少ない市場になる可能性があります。

 実際にこのようなスマホ市場の構造変化があるのであれば、来期以降のI&SS分野は、5Gスマホの台数増加以上の伸びが期待しにくくなると思われます。

6)金融分野

 今1Qは、営業収入4,468億円(前年比32.6%増)、営業利益472億円(同2.4%増)となりました。営業収益は、ソニー生命の特別勘定運用益の増加などによって大幅増収となりました。一方営業利益は、ソニー生命の変額保険の損益悪化やコロナ対策関連費用を計上したため、微増益に止まりました。

 2021年3月期通期も今1Qと同じ傾向が予想されます。会社側の今期予想は、営業収入1兆4,000億円(同7.1%増)、営業利益1,420億円(同9.6%増) です。

 今後の注目点は、新型コロナウイルス禍が長期化した場合、対面営業が中心のソニー生命の事業に問題が出ないのかということです。これについては今後の業績動向を確認したいと思います。

 なお、7月13日付けで、ソニーフィナンシャルホールディングス(SFH)の公開買付けが完了しました。SFHは8月31日に上場廃止となり、9月2日付けでソニーの完全子会社となる予定です。SFHの完全子会社化によって、SFHの少数株主持分の取り込みと税効果が発生するため、ソニーの連結純利益に対して年間400~500億円のプラスの効果が期待できます。2022年3月期楽天証券業績予想にはこの効果を織り込んでいます。

4.今後6~12カ月間の目標株価を、8,500円から1万1,000円に引き上げる

 今後6~12カ月間の目標株価を、前回の8,500円から1万1,000円へ引き上げます。楽天証券の2022年3月期予想EPS 474.9円に想定PER20~25倍を当てはめました。ゲーム事業をけん引役とした業績拡大が続くと予想されます。投資妙味を感じます。

 なお、総額1,000億円または2,000万株を上限とする自社株買いを行います。期間は、2020年8月5日から2021年3月31日までです。