コロナ後、日本が世界と戦うためにすべきことは?
——新型コロナでヒト、モノ、カネの動きが止まり、世界経済は大きな打撃を受けましたが、その中で米国や中国のデジタル企業は大きく業績を伸ばし、株価も急上昇しています。5月にはGAFAM(アルファベット(グーグルの持ち株会社)、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトの5社)の株式時価総額の合計が560兆円を超え、東京証券取引所1部に上場する2,170社の合計を上回りました。この5社を株価で猛追しているのがアリババ、テンセントといった中国IT大手です。世界の覇権を争う米中プラットフォーマー(デジタル技術でビジネスや生活の基盤を提供する会社)との競争に日本はついていけるのでしょうか。
三木谷 世界競争に勝ち抜くためにも、今、楽天が頑張っているという部分もあります。楽天は6月、次世代通信規格「5G」のシステムを海外で販売するため、中核となる制御装置の技術をNECと共同開発することを発表しました。楽天モバイルが実現した完全仮想化の携帯電話ネットワーク(*6)を5Gに適応させたシステムで、日本発の「5Gプラットフォーム」と言えます。
通信というのは基本的に道路と同じで、平坦で早くて安い方がいい。楽天モバイルはネットワークの完全仮想化でそれを実現しました。 誰もが「できない」と思っていた完全仮想化を実現した楽天モバイルは海外の通信会社にも注目されており、いろいろな引き合いが来ています。これを世界に広めることができれば、日本で唯一、GAFAMに対抗できるプラットフォームになりえます。 5Gのプラットフォームでは日本の通信が主役になれるかもしれない。チャンスはあると思います。
*6)完全仮想化の携帯電話ネットワーク
従来の携帯電話ネットワークは、特定の専用ハードウエアに依存していたが、楽天モバイルは仮想化技術によってソフトウエアとハードウエアを分離した。ネットワークは汎用ハードウエアで構成され、大幅なコスト削減につながった。
——楽天にとって楽天モバイルの完全仮想化ネットワークは、将来、アマゾン・ドット・コムのAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)のような、新たな収益源になっていくのでしょうか。
三木谷 そうなると思います。グラウンド・ブレーキングなプラットフォームになり得る技術です。
——楽天モバイルは、今後、どのくらいのペースで加入者を増やしていく計画ですか。
三木谷 楽天モバイルのオンライン手続きは非常に簡単なので、初めての方にも他のキャリアから移行される方にも申し込みやすいと自負していますが、今後はもっと簡単に、短時間で手続きが終えられるようにしていく予定です。ただ、使える電波の帯域が限られているため、いきなりドンと増やして、お客さまに不都合が出てはいけないので、そこは慎重にビジネスプランを立てています。
——株式市場ではGAFAMだけでなく、世界の自動車メーカーの中で時価総額首位だったトヨタ自動車が米国の電気自動車メーカー、テスラに抜かれるという「事件」も起きました。販売台数の実績を見ればテスラは年間37万台で900万台を超えるトヨタの足元にも及びませんが、株式市場はテスラの方を高く評価しています。
三木谷 アメリカの投資家は、今が赤字でも、将来性があれば、その会社を高く評価して株を買います。そういう未来志向のアメリカの株式市場があったから、今のテスラがあるとも言えます。
一方、日本人は投資家も含めて、未来志向の人が少なく、短期的な尺度の投資をする人が多い。有権者が投票で政治家を育てるように、投資家(=株主)が企業を育てるという側面は確実にあります。企業の行動というのは投資家の反応で変わります。投資家のビジョンは企業経営者に大きな影響を与えますし、投資家の考え方が変われば経営者も変わるのです。日本企業を強くするためには、まず投資家が変わる必要がある。
投資家が未来志向になるためには、ラーニングが必要です。2020年4月27日、楽天証券のスマホ向けトレーディングアプリ「iSPEED for iPhone/Android」(*7)で、米国株式の銘柄情報の閲覧や注文、銘柄管理ができるようになりました。グローバル投資は、投資家や株主が意識改革する、よいきっかけになるのではないでしょうか。瞬間風速的な株価の急騰急落や、配当や株価に惑わされず、未来志向で日本株と米国株を比べるようになるなど、投資家のマインドが変わってくるし、それが日本企業の経営を変えることにもつながると思います。
*7)「iSPEED for iPhone/Android」
楽天証券が開発した株取引アプリ。iPhone、アンドロイドのスマホやタブレット端末のiPad、Apple Watchに対応し、株、FX(外国為替証拠金取引)、商品先物などの銘柄情報閲覧、注文、銘柄管理ができる。
——プロ野球、サッカーJ1リーグは無観客で再開し、徐々に制限した人数の観客を入れ始めたところです。楽天のスポーツビジネス(*8)は、国内で東北楽天ゴールデンイーグルス、ヴィッセル神戸、海外でFCバルセロナ、NBAのゴールデンステート・ウォリアーズ、台湾の楽天モンキーズなどがありますが、コロナ禍で打撃を受けているスポーツビジネスはどう変わるのでしょうか。
三木谷 新型コロナウイルスのワクチンができれば、スタジアムにお客さまが戻ってくると思いますが、一方でスポーツの新しい楽しみ方は追求していかなくてはなりません。
ただ、今は、プロ野球もJリーグも視聴率はとても上昇していて、番組配信の中で人気コンテンツになっている。試合や中継が中断されていたことで、スポーツの、コンテンツとしての価値は、間違いなく上がりました。デジタル化によるマネタイゼーションも加速しました。新しいコンテンツの価値を認識し、従来にない楽しみ方を学んだお客さまも増えている。コロナが終息してスタジアムのお客さまが戻っても、この部分は上乗せになるわけです。今は、確かにプロスポーツの運営は厳しいタイミングですが、この状況は、最終的にはスポーツビジネスにとってポジティブだと思います。
*8)楽天のスポーツビジネス
2004年に東北楽天ゴールデンイーグルスを立ち上げプロ野球に参入。J1のヴィッセル神戸は2018年、元スペイン代表のアンドレス・イニエスタと契約を結んで世間を驚かせた。2016年にはリオネル・メッシなどが所属するスペインの名門FCバルセロナ(バルサ)とパートナー契約を結び、バルサのユニフォームには「Rakuten」のロゴが入っている。バスケットでは米NBAのゴールデンステート・ウォリアーズとパートナーシップ契約を結び、特別協賛をするテニスの楽天ジャパンオープンも毎年開催している(2020年は新型コロナで開催中止)。
——アフター・コロナの時代を生き抜くために、日本や日本企業は何をすべきでしょうか。
三木谷 企業として重視すべきなのは、最後は人材だと思います。楽天モバイルのように新しいビジネスを立ち上げる場合も、究極は人。優秀な人を集めることが最重要です。そういう意味では、今は、インドの優秀なエンジニアなど、国境を越えて優秀な人材を獲得する大チャンスですよね。新型コロナの影響でアメリカには気軽に行きにくくなったし、中国も制約が多くて行きにくい。例えば外国人就労者が働きやすくなるように、税金をドンと下げるような優遇策を打ち出せば、優秀な人がたくさん日本を選んでくれるようになる。良い人材を育成するために、まずは教育が、大きく変わっていくべきだと確信しています。