スティーブン・ローチ氏の指摘

 新型コロナウイルス感染拡大や経済規制によって大きく落ち込んだ経済活動は、米政府とFRB(米連邦準備制度理事会)が連携した政策効果によって4月を底に回復しつつあります。最近の米国経済指標や株式市場も、予想を上回るペースで改善しています。

 そんな中、先日のTVニュースで、久々にスティーブン・ローチ氏(米エール大シニアフェロー)のインタビュー映像を見ました。1980年代からの米国の代表的なエコノミストの一人ですが、今も活躍されています。

 そのインタビューの中、ローチ氏は、新型コロナウイルス対策による財政赤字の拡大で、ドルは2020年、2021年に実効為替レートで35%下落するだろうと指摘しています。35%下落とは、ドル/円の名目為替レートだと、1ドル=約70円の円高ということです。

 国内の純貯蓄(家計・企業・公的部門の貯蓄の合計)が国民所得比でマイナスになると、為替で調整される力学が働き、基軸通貨であるドルもその例外ではないというのが彼の持論ですが、その調整時期が2020年、2021年という早い段階で起こるという主張が新鮮でした。マーケットでは双子の赤字によるドル下落という、1980年代の伝統的な論法はまだ話題にもなっていませんが、留意しておく必要はありそうです。

 世界の新型コロナウイルス感染者数は1,000万人を超え、感染拡大が続いています。その中でも米国は最大感染国です。ワシントン・ポスト紙は5日、米国で過去1週間の新規感染者数が1日当たり平均約4万8,600人に上ったと伝えており、感染者数は連日過去最多を更新している状況です。この感染拡大が米国内に止まらず、再び経済活動が規制され、さらに政府の対応が追いつかない場合、この論法は突然、話題になってくるかもしれません。

米コロナ対策の責任者・ファウチ所長の警告

米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は6月30日、米議会上院で新型コロナウイルス新規感染者が1日当たり10万人になっても「驚かない」と述べています。そして、別の討論会では、「米国は流行がいったん落ち着くことなく再拡大が起きており、第1波の最中にある」との見方を示し、「深刻な状況だ。すぐに対処しなければいけない」と改めて警告しています。

 ファウチ所長はトランプ米政権の新型コロナウイルス対策の責任者であり、これまでも政権に対し、かなり厳しい意見を述べてきています。しかし、それでもトランプ米大統領は彼を更迭しません。そんな人物の意見であるため、留意する価値がありそうです。