少し理論的な補足
ポートフォリオ運用の理屈から考えると、「10年先の企業像」から得られる期待リターンに仮に有意な情報が含まれているとしても、その時々の短期の情報(ノイズ的なものも含めて)が持つ期待リターンへの影響にほとんどかき消されてしまうだろう。
また、ポートフォリオは、取引コストがゼロなら、日々刻々の情報を反映して、常に理想的なものが保有されているべきだが、現実には、取引コストの影響がある。取引コストが非常に大きい場合(企業の持ち合い株などは「現実的には」そうかもしれない)には、長期でゆったり変わる情報があるとした場合、短期で変化する情報よりもこれを優先すべき理由があるが、現状のマーケットではほとんどの投資家にとって、取引コストはそういった投資行動の変化を要求するほど大きくないだろう。
目先の情報で頻繁に売り買いすることを推奨するわけでは決してないが、長期投資にこだわるのではなく、銘柄の入れ替えに値する情報があれば、ポートフォリオの調節は柔軟であるべきだ。
【補足】
10年と少々前の記事で、「10年単位で投資を考えること」について(あまり意味がないと!)言っている。記事をよく読むと、筆者はいやいや将来の予想をしている。昨年までの外国人訪日客のインバウンド需要は読めているが、新型コロナウイルスでこれが枯れるとは当然読めていない。仮に筆者が実業家で、ホテルの建設にでも乗り出していたら、大当たりと思った1~2年の後に倒産の危機に瀕していたかもしれない。株式なら換金して投資から降りることが容易だが、「10年間は必ず持ち続ける」と力むのは、ホテルを作る事業投資と変わらなくなる。投資の世界では「長期投資」が、妙に不自由で無理な投資を意味したり、逆に、過剰に素晴らしいもののように言われたりで、「素直に」「正しく」受け止められていない。これからも、長期投資については書く機会がありそうだ。(2020年6月25日 山崎元)