「長期投資」の実像

 結局、市場の参加者は、現在のデータ(たとえば収益予想)を元に将来を(10年先も含まれる将来の全体イメージを)想定し、次のデータによってその想定を改訂するゲームを戦っている。視点が遠い将来にないわけではないが、将来像に影響を与えるのは、刻々と更新される現在のデータであり、これをベースに自分も含めた投資家が株価を形成していると考えるべきだ。一人だけ超然と「現実離れ」することに積極的なメリットはない。

 しかし、特に初心者に近いアマチュア投資家の場合、株価の日々の変化が気になって仕方がない場合がある。こうした投資家の場合、「自分はこの企業の10年先に賭けているのだ」と思い込むことは、頻繁で過剰な売買を避けるうえでの、心理的な方便になることがあるだろう。結果的にそれがいい可能性もある。

 筆者の好みを言うと、初心者であっても、現実を直視すべきだと思うが、あくまでも一つの方便として、10年先を見て投資するという立場はあり得る(お勧めはしないが)。

 一方、プロの運用者の場合は、自分は「企業の10年後に注目して投資している」と称することで、投資の短期的な失敗に関して、結論を少々将来に先延ばしする「言い訳」、あるいは「開き直り」として、「10年後」が使える場合が(たまには)ある。古くから運用業界では「長期投資(だから、短期の結果には、こだわらないで下さい)」が顧客向けの言い訳の定番だ。

それでも将来を考えると

 ところで、原則論としては以上のようなことを答えるとしても、インタビュアーがそれで許してくれるとは限らない。「なるほど、よく分かりました。それはそれとして、10年後にはどんな産業が栄えているでしょうか」というくらいの質問を続けるくらいの「鈍感力」がないと、インタビュアーは務まらない(他人の話を「それはそれとして」と一括りにするのは、何とも乱暴ではある)。

 未来の産業を予測する上手い手順があるわけではないが、製造業からサービス業へのウェイトの変化、モノの製造業における競争の激化と途上国の優位性、人口が増えない日本国内の需要成長の乏しさなどを考えてあえて、上記のようなインタビュアーの質問に答えるとすれば、現時点での筆者の答えは、「グローバルな需要が獲得できる、サービス業的なビジネス」が将来の日本の成長産業になるような気がする。たとえば、中国人を中心とする外国人向けの観光関連産業などは、案外大きな成長性がありそうだ。日本の観光資源は豊かだし、日本人の「もてなし」の誠意と細やかさには世界的な競争力があると思う。エンターテインメントやソフト、アートなども有望だが、英語、中国語などでどれだけ発信できるかという言語の壁がありそうだ。

 他方、貿易で厳しい国際競争に晒される「モノ作り」は苦しいのではないかと思える。10年でそうなるかどうかは分からないが、たとえば、日本の自動車メーカーが、将来は、現在の米国のGMやクライスラーのような状況になっていないとも限らない。先般与党が発表した経済対策で自動車や電機メーカーが「エコ」推進を名目に政府からサポートを受ける様子を見ると、日本の自動車や電機業種の将来は暗いのではないかという気がしてしまう。