特集2:新型コロナウイルス感染症の最近の動向

1.改めて新型コロナウイルスの感染初期からの動きを概観する。日本で何が起きたのか。

 今の新型コロナウイルス禍がいつまで続くのか、自粛は長期化するのか、株式投資にとってのみならず、我々の生活や日本と世界の経済の先行きにとって重要な問題です。ここでは厚生労働省の統計データと報道資料を元に今年1月以降の状況を整理し、今後を展望する参考としたいと思います。

 まず、新型コロナウイルス感染症に関する相談件数の推移(グラフ13)とPCR検査人数の推移(グラフ14)を比べてみます。日本政府が国内で公式に新型コロナウイルス感染症の陽性患者を確認したのが2020年1月15日です。それから約1カ月たった2月14日から厚生労働省のコールセンターへの相談が急増しています。相談をしてきたすべての人に症状が出ていたとは思いませんが、症状がないのに電話する人も少数派と思われるため、この相談件数の急増は感染第1波が始まった証拠と考えることが出来ると思われます(全くの私見ですが)。

 ところが、全国のPCR検査人数の推移を見ると(グラフ15)、この感染第一波の中ではPCR検査が大きく増えてはいません。PCR検査が増え始めたのは、東京オリンピック中止が決まった3月24日頃からです。なぜPCR検査が2月中旬から3月中旬までに増えなかったのかは不明ですが、検査拒否があったと言われています。特に東京都の検査拒否が酷かったと巷間言われています。

 検査を断られた人たちは、全く私の想像ですが、自力で病院を探して治療を受けて治ったか、あるいは中には不幸にして死亡した人たちもいたと思われます。また、病院を探している間に他人に移したケースもあったと思われます。要するに、感染第1波の中で2次感染、3次感染と続く「n次感染」が始まった可能性があるのです。

 ところが、これが諸外国、中国や欧州、アメリカに比べて顕著な違いですが、死亡者が大幅に増えたということはないようです(例えば、肺炎で死ぬ人が一時に1,000人以上の規模で増えると目立つはずです)。

 もちろん、全国的に、特に東京都においてPCR検査が極端に少なかったため、感染第1波の実態はわかりません。

 次に感染第2波が始まったのは、厚生省のコールセンターへの相談件数を見ると3月中旬です。3月上旬から中旬にかけて相談件数が減っている期間がありますが、2月26日から約3週間の自粛の効果が出た可能性があります。

 感染第2波では、全国的に検査が増えています。愛知県のように3月中旬から知事の裁量でPCR検査を増やした県もありますが、東京都が本格的に検査を増やしたのは4月に入ってからです(表6)。全国の都道府県の中で最も人口が多く、人口密集地や歓楽街が多い東京都は他の道府県に比べ2倍から3倍以上の検査を行わなければ感染実態が把握できないはずです。今も検査件数自体は急増していますが、他の自治体を大きく上回る検査数ではありません。

 PCR検査人数の急増に合わせて、感染者数も増えています。感染第2波の中で実際に増えた面もあると思われますが、もともと都内でn次感染していた人たちの中で症状が出てきた人たちもいると思われます。このあたりの感染の経緯と実態は、感染第1波の詳細が分からないため、わかりません。この病気の特色である、無症状者と軽症者が日本にどの程度いるのかも現時点ではわかりません。

グラフ14 新型コロナウイルスに係る厚生労働省コールセンターの対応状況(相談件数)

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出所:厚生労働省資料より楽天証券作成

グラフ15 国内における新型コロナウイルスに係るPCR検査の実施状況

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出所:厚生労働省より楽天証券作成、2020年2月18日以降、結果判明日ベース

2.まだまだ検査不足だが、PCR検査が増えてきたので、実態がある程度明らかになってきた。

 特に東京都の場合、PCR検査の増加分に対する陽性患者の比率が約50%と他の道府県に比べて高い数字になっています。表6に掲載している東京都のPCR検査人数は、医療機関で保険適用で検査した分を合算していません。これを他の道府県と同じように保険適用分も合算したとして推定すると、この数字は40%前後になると思われますが、これでも他の道府県に比べて高い数字になります。要するに東京都には患者の数が多いということです。

 この感染者がPCR検査を増やすことであぶりだされていると思われます。表7は東京都で3月24日以降の毎日の感染者の属性を調べたものです。感染者合計を院内感染と市中感染とに分け、更に市中感染を経路判明と経路不明に分けました。

 数字を見ると、市中感染で経路が判明している陽性患者の数が、一定の範囲内に抑えられています。PCR検査増加と自粛効果が出ている可能性があります。一方で、院内感染が増えています。これは問題ではありますが、病院を封鎖して治療すれば終息させることができます(院内感染は食中毒やインフルエンザでも起こります)。

 大きな問題は市中感染で経路が不明である場合です。この中には、実際にどこで感染したのかわからないケースとともに、言えないケースがあると思われます。要するに、歓楽街での遊興や風俗です。ただし、そこがホットスポットになっていることが広く知れ渡るようになったためだろうと思われますが、市中感染(経路不明)の毎日の感染者数は最近になって減っています。これがこのまま減り続けるのか、今後の注目点です。

表5 新型コロナウイルス感染症の都道府県別発生状況

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出所:厚生労働省より楽天証券作成。
注1:日付は各都道府県が確認した日付。厚生労働省日報へは翌日版の記載となる。
注2:無症状病原体保有者を除く。

表6 主要自治体のPCR検査実施人数と新型コロナウイルス陽性者数

出所:厚生労働省より楽天証券作成
注:大阪府のみ継続性のあるPCR検査人数のデータがないため、検査件数をとった。

表7 東京都:新型コロナウイルス感染者の推移

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出所:厚生労働省、東京都、各種報道より楽天証券作成。
注1:PCR検査実施人数は数日分をまとめて厚生労働省に報告するようなので、毎日増えるわけではない。
注2:院内感染は3月24日以前に2件ある。発生元は、永寿総合病院、慈恵医大病院、中野江古田病院など。報道による数字であり全てを把握したものではない。

3.謎は大きい。日本と海外でなぜここまで差があるのか。

 新型コロナウイルス感染症にはわからないことが多すぎます。表8は日本と海外の比較ですが、日本の感染者数が少ないのは検査不足によるものがあるとしても、死亡者の数は圧倒的に少ないです。3月中旬から欧州旅行から帰国した人たちによって新型コロナウイルスの強毒性タイプが日本に入ってきたと言われており、死亡者数が毎日増えているのは確かです。また、検査拒否にあった人の中で病院をたらい回しにされて亡くなった人がいます。しかし、それでも大量に死亡者が出ているわけではないと思われます。日本特有の様々な要因が複合的に絡み合っていると思われます。

 このように日本と海外との間で違いが大きすぎる場合は、海外の事例はほぼ役に立たないと考えておいたほうがよいと思われます。厚生労働省の専門家会議のメンバーの一人が、何もしなければ、国内で重篤患者が85万人になり、その約半数の41.8万人が死亡するという試算を公表して話題になっています。この試算では、基本再生産数(1人が平均で何人に感染させるか)を欧州の2.5人とし、重篤者の致死率を中国の49%で試算しています。表8を見れば一目瞭然ですが、日本と海外は現実が違いすぎます。従って正しい試算をする場合は、日本の現実のデータを使うべきです。

 当該の試算は単純に予想死亡者数を大きく見せるために、数字が大きくなるデータを選んだのではないかと思われます。もし、これが日本で起こり得るならば、2月中旬からの感染第1波の時に大勢が死んでいたと思われますが、現実にはそうなっていません。

表8 新型コロナウイルス感染症の発生状況

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出所:ヤフーより楽天証券作成。元出所は厚生労働省、WHO等。
注:4月23日時点で厚生労働省が発表した4月22日の数値。

4.そろそろ日本経済を再起動すべき。そうしなければ、より大きな災厄が起こり得る。

 私が危惧するのは、日本経済の先行きです。早めに自粛を段階的にでも解除して、日本経済を再起動すべきです。

 急速に不況になっている今の日本で、失業者が増え始めています。就業者の場合は、その業界の監督官庁、業界団体、大手企業、大口の取引先、支店がある地方自治体などを通じて、各企業に対して従業員の健康に関して注意喚起がなされているはずです。そして、まともな企業の場合は、その注意喚起に従っているはずです。要するに就業者の多くは、日常的な健康管理の網の目の中にいるのです。

 ところが、失業するとこの網の目から抜け落ちることになります。そして、食べていくために無理なアルバイトをしたり歓楽街で働くことになれば、感染する可能性が高くなります。更に、明日のことが心配な人たちは感染しても直ぐには病院に行かないかもしれません。その結果、行政が把握できないところで感染が拡大する可能性があるのです。要するに、今は失業者を増やしてはならないのですが、不幸にして増え始めています。

 また、都市封鎖も同様です。都市封鎖を行った海外の都市で深刻な問題が起きています。中央政府、地方政府、企業、市民の各段階で金が乏しくなってきたのです。誰も中央政府をあてにしますが、中央政府にも限界があります。そもそも東京都は地形的に周辺県と連続しており(都市と都市の間に都市が連なっている)、周辺の県と経済が一体化しているため封鎖は不可能ですが、都市封鎖はしないほうが良いのです。

 今の全国緊急事態宣言は5月6日までです。日本政府が解除へむけた正しい判断をすることを願ってやみません。

本レポートに掲載した銘柄:ディスコ(6146)