“サバクトビバッタ”襲来で食糧危機?

 先ほど、新型コロナウイルスの感染拡大が鈍化していることをきっかけとして、中国で消費の回復期待が生じ、その消費回復期待が、穀物価格の反発の一因になっていると述べました。ここからは、この点以外の、足元の穀物価格の反発を支える材料について述べます。

・小麦:新型コロナウイルス感染拡大が続く欧米で、備蓄を拡大する思惑が浮上している。
・トウモロコシ:特に、新型コロナウイルス感染拡大が続く米国で移動制限がかかり、トウモロコシ由来のバイオ燃料の消費が減少する懸念が浮上。2020年度の生産に向け、米国で4月以降行われる作付け作業において、作付面積が2月の米農務省の展望会議で出された見通しを上回る可能性が浮上している。
・大豆:2020年度の生産に向け、米国で4月以降行われる作付け作業において、作付面積が2月の米農務省の展望会議で出された見通しを下回る可能性が浮上している。新型コロナウイルスの感染拡大予防のため、アルゼンチンでは港の稼働を延期すると発表され、同国からの大豆供給が一時的に停止している可能性がある。

 トウモロコシについては、下落要因があることがわかります。先述の騰落率ランキングでも下落したことが確認できますが、実際には、先週半ばから後半にかけて、反発色を強めました。トウモロコシにおいても、価格を反発させる別の材料があるわけです。

 それは、トウモロコシを含む穀物の供給のひっ迫懸念を生じさせる“サバクトビバッタ”が大量発生したことにより、世界規模の食料供給の安全保障上の問題が浮上していることです。昨年までの長雨の影響で、現在、東アフリカと中東、南アジアなどの複数の地域で同バッタの大群が発生しています。

 FAO(国際連合食糧農業機関)は、現在大量発生しているサバクトビバッタの情報について、関連するケニア、エチオピア、イエメン、イラン、スーダン、エリトリア、エジプト、オマーンに対し、バッタの群れなどの情報を更新しました。先週半ばに行われたこの情報更新と時をほぼ同じくして、穀物相場の反発が鮮明になりました。

 サバクトビバッタは、成虫になると体長が5センチメートル前後になり、大量発生した場合、1平方キロあたり数千万匹規模の巨大な群れをつくることがあると言われています。

 サバクトビバッタの生息地域は、北西アフリカから東アフリカにかけたサハラ砂漠を含むアフリカ大陸北部の大部分、アラビア半島などの中東地域、そしてインド西部を含む南アジアなどです。

 飛行能力が非常に高いこのバッタは、大群となり、風に乗って、1日あたり百キロ以上、移動することが可能です。このため、アフリカ大陸とアラビア半島の間の紅海や、サウジアラビアとイランの間のペルシャ湾、北アフリカとヨーロッパの間の地中海などの海を渡ることができます。10日間で、西アフリカからカリブ海まで、大西洋を渡ったという記録もあります。

 サバクトビバッタは大量発生時、国をまたいだ大規模な農作物への被害をもたらします。数千匹規模で移動をしながら、一日に数万人分の食糧に相当する穀物などの農作物を食い荒らします。このバッタは、農作物(トウモロコシ、米、麦など)であっても農作物でなくても、緑色の植物を食べるといわれています。

 1987~1989年、2003~2005年にかけて、主にアフリカ北部を中心に発生したサバクトビバッタの被害によって、農家の収入減少や、食料の供給不足、被害地域の治安悪化などの複数の悪影響が発生しました。

 そして現在、サバクトビバッタは、エチオピアやケニア、ソマリアなど東アフリカから、パキスタンやインド西部にかけて複数の箇所で大規模発生し、いくつかの国では緊急事態が宣言されています。目下進行中の、サバクトビバッタの大量発生が及ぼす食糧危機の懸念もまた、足元の穀物価格の反発の一因と言えると筆者は考えています。

 このバッタの最高到達高度は2,000メートルと言われていることから、ヒマラヤ山脈を越えることはないと考えられ、このバッタが中国で猛威を振るう可能性は低いとみられます。しかし、現在、チベットの税関では、念のため、バッタの侵入が起きていないかの確認が行われているとの報道があります。この報道は、サバクトビバッタの大群と中国が無縁でないことを示していると思います。

図:サバクトビバッタの大群の大まかな位置

出所:FAOの資料をもとに筆者作成