新型コロナウイルス速報、中国と欧米の感染状況で明暗くっきり

 以下のグラフは、新型コロナウイルスの感染者の増加数(前日比)を、中国とそれ以外の国・地域別に示しています。

図:新型コロナウイルスの感染者(前日比) 単位:人

出所:WHO(世界保健機関)のデータより筆者作成

 中国では、2月初旬から中旬をピークとし、新型コロナウイルスの感染拡大が鈍化しています。一時、数千人規模に達した同国の感染者の増加数(前日比)は、足元では、数十人から百数十人の規模まで減少しています。

 習近平中国国家主席が3月10日に“ウイルスは基本的には抑え込んだ”と強調したのは、このような、感染拡大の鈍化が顕著になったことが背景にあると見られます。

 一方、3月11日に、WHOの事務局長が言及したとおり、新型コロナウイルスは、世界的な感染拡大を意味する“パンデミック”となったわけですが、その後も、ヨーロッパと米国を中心に、感染拡大の勢いが止まっていません。

 習近平氏の“抑え込み”宣言と、WHOの“パンデミック”発言がほぼ同時だったことは、まさに、新型コロナウイルスが、中国から中国以外(主に欧米)に感染の舞台が、明確に移ったことを示していると言えます。

3月第3週目、反発銘柄の共通点は“中国”と“穀物”

 NYダウ平均株価は、以下のとおり、感染が世界に拡大しはじめた2月3週目ごろから下落が始まり、パンデミック発言のタイミング後、下げ幅を拡大させました。

図:NYダウの推移

出所:ブルームバーグ端末より筆者作成

 一連の下落の最中、欧米主要国は、財政・金融の両面から異例の手厚い対策を講じていますが、対策の効果への疑問が払しょくされず、策を講じたことが裏目に出て、かえって株価の下げ幅が拡大する場面もありました。

 一方、主要な株価指数の下落が目立つ中、3月3週目、複数の反発色を強める銘柄が出てきました。以下は、3月2週目の終値と3週目の終値を比較した騰落率のランキングです。詳細な説明等は、最新のジャンル横断騰落率ランキングで述べています。

図:ジャンル横断・騰落率 3月13日(金)から 3月20日(金)まで

※楽天証券のマーケットスピードⅡのデータより楽天証券作成
※プラチナ、パラジウムは楽天証券のマーケットスピードCX内「海外市場」の、中心限月のデータを参照。
※ビットコインは楽天ウォレットのビットコイン価格を参照。日本時間の前々週土曜日午前6時と前週土曜日午前6時を比較
※騰落率は前々週の週足の終値と前週の週足の終値より算出。(前週の終値-前々週の終値)÷前々週の終値

 上記の騰落率ランキングで注目したのは、“中国の株価指数”と“穀物”です。注目した理由は、中国の株価指数は他国の主要株価指数に比べて下落率が軽微だったため、穀物は貴金属やエネルギーなどの他のコモディティ(商品)のジャンルに比べて、上昇した銘柄が多かったためです。

 2月3週目以降目立っている、中国での新型コロナウイルスの感染拡大の鈍化と、欧米を中心とした国・地域への爆発的な感染拡大は、足元、以下のグラフのとおり、上海総合指数と中国に関りが深い銅の緩やかな反発、およびNYダウの下落という形で、主要銘柄の値動きに反映されています。

図:上海総合指数とNYダウ、銅の値動き(2020年3月18日を100として指数化)

出所:マーケットスピードⅡのデータより筆者作成

 今後中国で、さらに感染拡大が鈍化(さらには退院者の増加)、同時に欧米でさらに感染が拡大すれば、現在の株価指数の動きの傾向(中国反発・米国下落)が、さらに鮮明になる可能性があります。

 銅は、3月18日ごろ、下落基調が一旦収まり、下げ止まり感が強まっています。この点は、中国の株価指数が緩やかに反発色を強めている点に関連しているとみられます。

 中国における新型コロナウイルスの感染拡大の鈍化→中国の株価指数の緩やかな反発→中国における景気回復期待浮上(期待であり実態ではない)、という流れが生じ、中国が世界の消費量のおよそ半分を消費する銅において、価格に下げ止まり感が出たと考えられます。

 また、以下は穀物銘柄の値動きです。

図:穀物銘柄の値動き(2020年3月18日を100として指数化)

出所:マーケットスピードⅡのデータより筆者作成

 足元、小麦、大豆、トウモロコシの穀物銘柄の反発が目立っています。先述のとおり、3月13日と20日を比較すると、小麦は7.4%、大豆は2.5%上昇しました。また、トウモロコシは両日の比較では下落となったものの、3月18日(水)ごろから反発色を強めています。

 世界屈指の穀物消費国である中国における、新型コロナウイルスの感染拡大の鈍化は、同国の消費が回復する期待を高め、足元の穀物価格の反発の一因になっていると考えられます。

 さらに、中国の消費が回復する期待が高まることで、今年1月中旬に米国と合意した、米中貿易戦争における「第一弾の合意」の履行が可能になり、中国が米国産穀物の購入を開始する期待も生じます。

 また、目下、欧米と異なり、感染拡大のピークを越えた現在の中国は、世界の中でも数少ない、期待を見出しやすい国と言え、若干の期待を生む材料であったとしても、それが市場で拡大解釈され、人為的に膨らまされた期待が、穀物相場を反発させている可能性もあると見ています。

 当然、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、世界全体の景気が減退し、穀物の消費が減少する可能性はあります。しかし、直接あるいは家畜のエサとなり間接的に人間が食す穀物は、人間が生きる上で必要なエネルギー等の栄養素を摂取するために必要不可欠なものであるため、生命にすぐさま影響しない原油や金などに比べれば、消費は比較的回復しやすいと考えられます。

 穀物や銅とは対照的に、原油は大幅下落となりました。先述の騰落率ランキングや上記のグラフは4月限(3月20日に最終取引日を迎えた)を参照していますが、3月17日ごろから中心限月になった5月限も、大きく下落していました。

 原油価格の大幅下落の要因は、主なものとして(1)欧米での感染拡大が進行し、世界規模の消費減少懸念が強まっていることが挙げられますが、そのほか、(2)サウジやロシアなど旧OPEC(石油輸出国機構)プラスの産油国が4月から大増産をすることを宣言していること、(3)新型コロナウイルスの大規模な感染拡大に見舞われていることを理由に、制裁を主導する米国に対して経済制裁の免除を訴えているイランから、原油供給量が増加する可能性が浮上していること、などが挙げられます。

“サバクトビバッタ”襲来で食糧危機?

 先ほど、新型コロナウイルスの感染拡大が鈍化していることをきっかけとして、中国で消費の回復期待が生じ、その消費回復期待が、穀物価格の反発の一因になっていると述べました。ここからは、この点以外の、足元の穀物価格の反発を支える材料について述べます。

・小麦:新型コロナウイルス感染拡大が続く欧米で、備蓄を拡大する思惑が浮上している。
・トウモロコシ:特に、新型コロナウイルス感染拡大が続く米国で移動制限がかかり、トウモロコシ由来のバイオ燃料の消費が減少する懸念が浮上。2020年度の生産に向け、米国で4月以降行われる作付け作業において、作付面積が2月の米農務省の展望会議で出された見通しを上回る可能性が浮上している。
・大豆:2020年度の生産に向け、米国で4月以降行われる作付け作業において、作付面積が2月の米農務省の展望会議で出された見通しを下回る可能性が浮上している。新型コロナウイルスの感染拡大予防のため、アルゼンチンでは港の稼働を延期すると発表され、同国からの大豆供給が一時的に停止している可能性がある。

 トウモロコシについては、下落要因があることがわかります。先述の騰落率ランキングでも下落したことが確認できますが、実際には、先週半ばから後半にかけて、反発色を強めました。トウモロコシにおいても、価格を反発させる別の材料があるわけです。

 それは、トウモロコシを含む穀物の供給のひっ迫懸念を生じさせる“サバクトビバッタ”が大量発生したことにより、世界規模の食料供給の安全保障上の問題が浮上していることです。昨年までの長雨の影響で、現在、東アフリカと中東、南アジアなどの複数の地域で同バッタの大群が発生しています。

 FAO(国際連合食糧農業機関)は、現在大量発生しているサバクトビバッタの情報について、関連するケニア、エチオピア、イエメン、イラン、スーダン、エリトリア、エジプト、オマーンに対し、バッタの群れなどの情報を更新しました。先週半ばに行われたこの情報更新と時をほぼ同じくして、穀物相場の反発が鮮明になりました。

 サバクトビバッタは、成虫になると体長が5センチメートル前後になり、大量発生した場合、1平方キロあたり数千万匹規模の巨大な群れをつくることがあると言われています。

 サバクトビバッタの生息地域は、北西アフリカから東アフリカにかけたサハラ砂漠を含むアフリカ大陸北部の大部分、アラビア半島などの中東地域、そしてインド西部を含む南アジアなどです。

 飛行能力が非常に高いこのバッタは、大群となり、風に乗って、1日あたり百キロ以上、移動することが可能です。このため、アフリカ大陸とアラビア半島の間の紅海や、サウジアラビアとイランの間のペルシャ湾、北アフリカとヨーロッパの間の地中海などの海を渡ることができます。10日間で、西アフリカからカリブ海まで、大西洋を渡ったという記録もあります。

 サバクトビバッタは大量発生時、国をまたいだ大規模な農作物への被害をもたらします。数千匹規模で移動をしながら、一日に数万人分の食糧に相当する穀物などの農作物を食い荒らします。このバッタは、農作物(トウモロコシ、米、麦など)であっても農作物でなくても、緑色の植物を食べるといわれています。

 1987~1989年、2003~2005年にかけて、主にアフリカ北部を中心に発生したサバクトビバッタの被害によって、農家の収入減少や、食料の供給不足、被害地域の治安悪化などの複数の悪影響が発生しました。

 そして現在、サバクトビバッタは、エチオピアやケニア、ソマリアなど東アフリカから、パキスタンやインド西部にかけて複数の箇所で大規模発生し、いくつかの国では緊急事態が宣言されています。目下進行中の、サバクトビバッタの大量発生が及ぼす食糧危機の懸念もまた、足元の穀物価格の反発の一因と言えると筆者は考えています。

 このバッタの最高到達高度は2,000メートルと言われていることから、ヒマラヤ山脈を越えることはないと考えられ、このバッタが中国で猛威を振るう可能性は低いとみられます。しかし、現在、チベットの税関では、念のため、バッタの侵入が起きていないかの確認が行われているとの報道があります。この報道は、サバクトビバッタの大群と中国が無縁でないことを示していると思います。

図:サバクトビバッタの大群の大まかな位置

出所:FAOの資料をもとに筆者作成

短期的な売買が可能な穀物関連銘柄

 中国における新型コロナウイルスの感染拡大の鈍化が、中国での消費回復期待を生み、また、それが、米中の「第一弾の合意」順守への期待を生んでいるとみられます。中国における、同ウイルスを巡る情勢が改善に向かえば向かうほど、これらの期待は強まり、穀物相場にとってはプラス要因が強まると考えられます。

 加えて、小麦では欧米で備蓄が積み上げられる観測が、大豆では今年の米国での作付面積が減少する観測が出ていると言われています。トウモロコシは今年の米国の作付面積が増加する、移動制限などによりバイオエタノールの消費が減少するなどの観測もありますが、米国で新型コロナウイルスの感染が拡大すれば、作付け作業に支障が生じ、大豆だけでなく、トウモロコシの作付面積も減少する可能性もあります。

 そして、現在、サバクトビバッタが猛威を振るう、東アフリカから中東、西アジアで、食糧難が発生する可能性が高まっています。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が進行する中、サバクトビバッタが猛威を振るっている地域で大規模な食糧難が発生すれば、食料の安全保障が脅かされたことで、不安が強まり、世界的に、穀物(というよりも食料)を調達しようとする動きが強まる可能性があります。

 現在の穀物相場には、新型コロナウイルス、米国の作付け、サバクトビバッタなど、複数の材料が一度に作用している状況と言えます。足元、反発色を強めていますが、今後も、短期・中期的に、反発色を強める可能性があると、筆者は考えています。

 以下は、楽天証券で取引ができる穀物関連の銘柄の一例です。今後のお取引の参考になれば幸いです。

図:楽天証券で取引ができる穀物関連の銘柄(一例)

出所:筆者作成