投資家にとっての現状

 インデックス運用の弱味は、インデックスの銘柄入れ替え、ないし銘柄ウェイトの変化に伴う売買が、売買内容が他の市場参加者に利用されやすいことだ。大きな金額の資金が行う売買の内容が、事前に知られているということだから、不利には違いない。この問題については、別の機会に少し詳しく書いてみたい。

 たとえば、TOPIXであれば、現状では年間の売買回転率が7%くらいで、あるインデックス運用者に聞いたところ、この入れ替えに伴うインデックスの損失は年間十数ベイシス程度と思われるとのことだった。現時点では、アクティブ・ファンドとの信託報酬の差を考えると、TOPIX型のインデックス・ファンドの優位は動かないようだ。

 なお、巨額のインデックス資金を運用する投資家の場合、インデックスの銘柄変更や銘柄ウェイト変更の影響に対抗するためには、既存の運用資金のリバランスを放棄してしまうことが有力ではないかと思う。たとえば、2010年9月時点のTOPIXを「TOPIX1009」とでも名付けて、10月の浮動株ウェイトの変更を無視するのだ。TOPIX1009とベンチマークであるTOPIXとの間にはアクティブ・リスクが発生するが、アクティブ・リスクはそれほど大きくないはずだし、リターンの上ではプラス/マイナス両方に作用するので、ほぼ必ず不利を被るTOPIXに厳密にトラックさせるよりも有利なはずだ。

 これ以外の方法としては、リバランスの時期をずらす方法もある(運用会社への指示は多少面倒になる)が、たとえばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のように巨額の資金をインデックス運用している投資家は、何らかの対策を講じるべきだと思う。

【補足】
 約10年前の記事だが、インデックス運用がアクティブ運用に勝る理由は変化していない。本文中にもあるように、運用競争のゲームにあっては「ライバルの平均」を持つことが有利であり、この原則は、株価形成が効率的(いわゆる「市場の効率性」)であってもなくても、また、上げ相場であっても下げ相場であっても原理的には同じだ。
 ただし、下げ相場にあっては、アクティブ運用がキャシュポジションを抱えやすい傾向があるので、アクティブ運用の平均が「たまたま」勝つことがあるので、評価を間違えないことが肝心だ。
 文中、インデックスの銘柄・ウェイトの変更が不利に働くことに対する注意があるが、東証1部の今後の改革に絡んで、TOPIXがどのように扱われるかに関して注目される。トレーダーがもうかり、インデックス投資家が損をするような「トレーダーへの悪質な補助金」にならないように監視を強めるべきだろう。(2020年3月19日、山崎元)