平均運用の有利性
インデックス運用の有利さを実感するための例を挙げる。架空の例だが、次のケースを考えてみてほしい。
世の中にファンドマネージャーが11人だけいて、彼らだけが株式市場の参加者で、みな同じ金額を運用しているとする。単純化のためにみな同じ資金額を運用しているとする。
そのうちの一人は、他の10人が運用しているポートフォリオを観察することが可能で、自分の資金を10等分して、それぞれの資金で他のファンドマネージャーのポートフォリオを縮小コピーした運用、すなわちインデックス運用(時価総額加重型のインデックスにトラックすることを目指す運用)をするとどうなるか。
運用1年目、インデックス運用者の運用成績は、おそらく11人中の真ん中である6番目くらいだろう(残り10人の運用内容の違いや偏りによって変化するが、大まかには)。翌年も、その翌年も、多分、ほぼそうなることが予想できる。
ここで、インデックス運用者は安い手数料で運用し、他の10人が高い手数料で運用すると、それぞれにお金を預けている顧客が最終的に受け取る利回りはどうなるか。「平均的に見て」、インデックス運用者にお金を預けている顧客は、他の10人のいずれかに預けている顧客よりも運用結果がいいことになる。
ここまでは、前に説明した点と同じだ。
加えて、ポートフォリオの動きまで考えると、インデックス運用者はさらに有利になる。残り10人の間では、おのおのが「いい!」と思う銘柄を買い、「これはダメだ!」と思う銘柄を売るので、売買が発生する。現実世界では、売買にはなにがしかの手数料が掛かるし、マーケット・インパクトもある(自分自身の売買で株価を不利な方向に動かす効果のこと。大量に買うときには、株価が上昇して高く買わされる)。10人は売買のたびに手数料を払うし、あれこれと考えることにもなるだろうし、調査費用を掛ける場合もあるだろう。一方、インデックス運用者のファンドは、他の10人の中で相殺的に売り買いされている株式(たとえば、誰かがソニーの株を買い、その時に誰かがソニーの株を買うと、そういうことが起こる)の分だけ、売買の手間と手数料を節約することができる。
「塵(ちり)も積もれば山となる」は、運用の世界にもあてはまることわざであり、1年目は11人中6番目だったインデックス運用者のファンドも、運用年数が経過するに従って、その通算成績ではもっと有利な位置を占めることができるようになるだろう。
ちなみに、インデックス運用者が実際の運用ビジネスの世界でファンドマネージャーだった場合、もう一ついいことがある。それは、インデックス運用者が、最下位ないしはその近辺の運用成績を取ることが、1年単位でも、通算成績でも、ほぼあり得ないことだ。これは、年金運用のように、運用会社間で競争している時には重要な特質だ。
通常、運用契約の解約は、パフォーマンスの最下位あるいは、最下位から何%かのレンジの運用成績に落ち込んだときに通告される。理論的に、それが正しいのだというわけではないが、年金基金のような顧客の行動パターンはおおむねそんな感じだ。
つまり、運用を相対パフォーマンス競争のゲームとして、あるいはビジネスとして捉えると、「ライバルの平均を持つ」というのは、有力な戦略であり、これは、囲碁や将棋でいう「手筋」に当たる。
実は、現実のアクティブ運用のポートフォリオにも「ライバルの平均」に似てくる傾向がある。ファンドマネージャーにとって、ライバル会社(あるいは同僚?)に大きく負けることは、自分のキャリア上のリスクにつながりかねないリスクがあるので、これを避けようとして、お互いのポートフォリオが似ることがしばしば起こるのだ。
著者が英国系の運用会社に勤めていたときのことだが、この会社のロンドン本社では、他社の国内株ポートフォリオの業種比率の平均に対して1%(時には0.5%)オーバーウェイト/アンダーウェイトといった調子で他社との相対的なリスクを用心深く管理していた。しかし、彼らは「アグレッシブなアクティブ・マネージャー」というイメージを顧客に訴えていたので、他方で、インデックス運用的だと思われることを大いに警戒していた。運用ビジネスにあっては、「平凡な運用」+「非凡な宣伝」の組み合わせが王道なのだ。
時価加重型インデックスでない場合
市場全体をカバーする時価加重型のインデックスに連動することを目指す運用については、上記のように考えると有利さを実感できるが、MSCIのように市場のすべてをカバーするわけではないインデックスや、日経平均株価やNYダウ平均株価のように、市場の全銘柄よりも大幅に銘柄数が少なく、しかも、株価ウェイトとでもいうべき独特のポートフォリオで運用されている場合には、これをどう考えたらいいのだろうか。
たとえば、日経平均はより「市場平均」に近いTOPIX(東証株価指数)とパフォーマンスの差ができるはずだが、大まかにはこの差は「勝ったり、負けたり」であり、通算でどちらが有利になるかは、一概にはいえない。日経平均が、低回転率を維持し、日経平均連動ファンドの手数料がTOPIX連動ファンドの手数料並みかそれ以下であれば、この「勝ったり、負けたり」の差を「サイコロのようなものだ」と気にしないで割り切れる投資家なら、日経平均のインデックス・ファンドを買うという選択も十分合理的だろう。
ただし、ポートフォリオとしての日経平均を見ると、株価の高い銘柄(「旧額面」に対して株価の高い銘柄)のウェイトが高く、かなり癖のあるポートフォリオで、リスクのバランスがいいとはいえない。
日経平均のようなインデックスは、先物・オプションの原資産として、厳密な裁定ポートフォリオが少額でも作りやすいというメリットがあるが、資産形成のための運用ポートフォリオとしては多少の難点を抱える場合があると考えておけばいいだろう。
個人的には、資産形成のために投資するインデックス・ファンドとしては、日経平均連動型よりも、TOPIX連動型のものをお勧めするが、細かいことにこだわらない人には「どちらでも大差はない」とお答えしておく。日経平均連動型のファンドでも、現行の手数料の高いアクティブ・ファンドに投資するよりは優れた選択だ。