毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄:日本電気(6701)

1.2020年代の4大テクノロジー

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 今回は2020年最初の楽天証券投資WEEKLYです。「量子コンピュータ」を取り上げます。

 2020年代は、2010年代にも増して重要なテクノロジーが社会を大きく動かす時代になると予想されます。そのテクノロジーとは、次の4つです。

  • 超高性能半導体(5ナノ→3ナノ→2ナノ?)
  • 5G(第5世代移動通信システム)
  • AI(人工知能)
  • 量子コンピュータ

 この4つのテクノロジーの中で、本物の量子コンピュータはまだ完成していません(量子アニーリング型という機能限定型量子コンピュータの原型が完成している)。量子コンピュータが従来のスーパーコンピュータのような古典コンピュータの能力を大きく凌駕するものなのかについては、異論もあります。しかし、量子コンピュータが実現して、これまでにない高速計算が実現すれば、それを使う企業だけでなく、我々の社会に対しても大きな影響(プラスだけでなくマイナスの影響も)を与えることになると思われます。

2.量子コンピュータとは何か

1)量子コンピュータの仕組み

 従来のコンピュータ(古典コンピュータ)は、0と1の2つの値で表現される「ビット」(古典ビット)で情報を取り扱います。この場合、「0」か「1」のいずれか1つを表現し、複数の状態を同時に表現することはできません。これは、マクロな粒子の動きを探る古典力学の世界です。

 ところが量子コンピュータは、電子や光子のようなミクロの粒子である「量子」を扱う量子力学の世界で動きます。量子力学には複数の状態を同時に表すことができる「重ね合わせの原理」があります。そのため、古典ビットでは0か1かどちらかしか表現できなかったものが、量子ビットでは0と1を同時に表現することができるのです。

 1古典ビットが表現できる数値は1つ(0か1か)ですが、1量子ビットは2つ(0と1を同時に持つ)です。n古典ビットが表現できる数値は、2のn乗の中から1つだけですが、n量子ビットが表現できる数は2のn乗の数値全てになります。n量子ビットによる計算は、同時に2のn乗の計算が実行できることになります。そのため、量子コンピュータは古典コンピュータにない規模で高速計算ができるのです。

2)量子コンピュータの種類

 量子コンピュータには大きく分けて2つあります。「量子ゲート型」と「量子イジングマシン型」の2つです。「量子イジングマシン型」は、更に「量子アニーリング型」、「量子ニューラルネットワーク型」に分かれます。なお、量子アニーリングの機能を取り入れたデジタル回路型もありますが、これは量子コンピュータではなく、疑似的に量子コンピュータの機能を取り入れたコンピュータです。

「量子ゲート型」は、今のコンピュータの上位互換を目指したもので汎用的な問題を高速処理するのに使えます。ただし、開発が困難で実用化にはまだ時間がかかると言われています。2020年1月8日、米IBMは昨年に比べ2倍の性能を実現した量子コンピュータ「Raleigh(ローリー)」を発表しましたが、このペースで開発が進めば2030年までに量子コンピュータの実用化が見込めるとIBMは考えているようです。1年前の報道では完成は30年以上先と書かれていたので、年を追うごとに開発が進んでいます。

 一方、「量子アニーリング型」と「量子ニューラルネットワーク型」は、量子ゲート型のように万能型コンピュータを目指すものではなく、「組み合わせ最適化問題」を解くことに特化した方式です。このうち、「量子アニーリング型」を研究する会社が量子ゲート型に次いで多いため、量子コンピュータの方式としては「量子ゲート型」と「量子アニーリング型」の2つに大別されています。

 量子コンピュータの問題点はいくつかあります。まず「量子ゲート型」は、ノイズやエラーに弱いため、量子エラー訂正技術が必要になります(計算エラーが起こる)。また、量子チップの集積度を上げるのにも困難があります。

 一方で、「量子アニーリング型」はノイズには強いですが、前述のように、汎用コンピュータではなく、組み合わせ最適問題に特化したコンピュータです。

図1 量子コンピュータの種類

出所:各種資料より楽天証券作成

3)グーグル対IBM、開発進む量子コンピュータ

 昨年2019年は量子コンピュータの話題が多い年になりました。2019年10月にグーグルがNASAなどの研究者との共同論文で、超電導回路を使った量子コンピュータ(量子ゲート型)で、世界最速のスパコンで1万年かかる実験を200秒で実行したと発表しました。そして「量子超越」(量子コンピュータで従来のコンピュータにはできない計算をするという意味)が実現したと宣言しました。

 グーグルのこの「量子超越」宣言に対して、IBMはグーグルの量子コンピュータが解いた問題はスーパーコンピュータで約2.5日で解けると反論しました。また、グーグルの量子コンピュータが解いた問題は量子超越の証明のための問題であり、他には役に立たないものです。ただし、スーパーコンピュータが約2.5日(21.6万秒)かかる計算を、量子コンピュータが200秒で解いたということ、つまり1,080倍の計算スピードを実現したということは確かであるようです。

 量子コンピュータの開発は世界的に盛んになっており、グーグル、IBMなどの大手IT企業、アメリカ、欧州、中国などの有力国の研究機関で開発されています。日本でも国が各種プロジェクトで開発予算を組んでいます。

3.量子コンピュータの応用分野

 量子コンピュータの応用分野として期待されているものは、従来のスーパーコンピュータの応用分野、即ち、航空宇宙、化学、自動車、金融などへの応用です。量子コンピュータの中でも量子ゲート型が実用化された場合には、まず、これらの分野への応用が考えられます。

 また、量子コンピュータならではの応用分野があります。大量の高速計算が必要な分野です。

  • 量子化学計算:新素材や新薬の開発に使う。
  • 暗号解読:複雑な暗号でも短時間で解けるようになる→セキュリティのためには「耐量子コンピュータ暗号」(格子暗号、多変数暗号など)が必要になる。
  • 機械学習、ディープラーニング
  • 検索の高速化
  • 組み合わせ最適化問題:物流(巡回セールスマン問題。セールスマンが多くの顧客を訪問するときにどの順番で行けば最も効率的か)、交通(効率的なタクシー配車、交通渋滞の緩和など)、工場の生産効率化、業務効率化、金融(最適ポートフォリオの構築)など。

 また、量子アニーリング型は、組み合わせ最適問題に特化したコンピュータです。組み合わせ最適化問題を抱える企業、国、研究機関などが多いため、需要は多いと思われます。