企業の成長が鈍化したらどうする?

 前の第3章では、急成長している企業には高い株価評価が付与され、割高で取引されることを説明しました。

 普通、どんなに素晴らしい会社でも、事業規模が大きくなると成長率は鈍化するものです。これはその会社の規模が毎年大きくなると、その分だけ前年比較を計算する際の分母の数字が大きくなることが一因です。

 では、企業の成長が次第に鈍化する局面には、株価評価はどうなるのでしょうか?

 理屈から言えば、その場合の株価評価も、成長率の鈍化とともにだんだん下がってきます。これを株価の伸びから見れば、企業が成熟するに従って、昔のような倍々ゲームでのキャピタルゲインが望めなくなることを意味します。

 普通、若い伸び盛りの企業は、稼いだ利益を本業に再投資することが最も効率の良いおカネの使い方です。しかし、だんだん前と同じような投資リターンを期待できなくなれば、経営者は他の方法を考えなくてはならなくなります。

 そこで登場するのが、自社株の買い戻しや配当という形による株主への利益還元の方法です。

自社株買い戻しにはどんな意味がある?

 順番から言えば、企業が株主への還元を考える際、最初に検討するのが自社株の買い戻しです。

 なぜ配当を出すより先に、自社株の買い戻しを考えるのでしょうか?

 その第1の理由は、自社株の買い戻しが毎年必ず実行しなければならないものではないからです。儲(もう)かった年に自社株を買い戻す、次の年には余裕がなければ止める……そういうことが自社株買い戻しでは常識になっています。つまり自由が利くのです。

 ハイテク企業などの場合、社員への報酬を一部ストック・オプションで支払うケースもあります。つまり、現金によるボーナスではなく、自社株を従業員に与えることで報いるわけです。すると、自然に発行済み株式数が増えてしまい、それはEPS (1株当たり利益)を希釈化(=薄めてしまうこと)する原因になります。

 このため、ちょっとだけ自社株を買い戻して、発行済み株式数がむやみに増えないようにする企業は多いのです。

 自社株の買い戻しは、EPSを改善することに加えて、実際に市場へ買い注文を出すので、目先の相場の需給関係を良くするという効果もあります。

 ただ、企業が自分で自分の会社の株をトレードすると、それがちょうど決算発表前の微妙な時期に該当していたなどの不都合を生じる場合があります。このため、企業の自社株買い戻しは、証券会社のそれ専門にやっているデスクが、利益相反が生じないように注意を払いながら、計画的、規則的に実行します。