高所得世帯の所得代替率は低い
従来の財政検証は、専業主婦の夫婦世帯かつ平均的な賃金による試算しか示されていませんでしたが、今回は補足的に「多様な世帯類型における所得代替率」も示されています。従前から共働き世帯や独身世帯が増える中、メッセージが伝わりにくいといった声もあったため、これに対応したものと考えられます。
厚生年金加入世帯の所得代替率や給付水準の差は世帯類型の違いではなく、賃金水準によって生じるとの説明です。もちろんダブルインカムなら、その分が年金に反映されます。要するに世帯で納めた保険料の多寡が厚生年金の給付に影響するということです。
しかし、賃金差ほどに給付額の差はつかないため高所得世帯ほど所得代替率は低下するという点は理解する必要があります。これは、本質的に公的年金は社会保障制度であることに起因します。そもそも社会保障制度は、「相互扶助」の思想が背景にあるため、年金も所得再配分が前提のシステムになっているのです。
つまり、高齢者世帯の収入を賄うために現役世代全員で支え、所得の高い世帯が所得の低い世帯の分も頑張って賄っていくという設計となっているため、世帯所得によっても所得代替率は異なっています。
例えば2019年度において、賃金20万円の世帯の所得代替率は98.1%あるのに対し、賃金80万円の世帯は46.1%となっています。つまり退職後もできるだけ現役時に近い生活水準を維持したいと考えるなら、高所得世帯ほど公的年金に依存しない自助の割合を増やしていく必要があります。
財政検証で示されたオプション
もう1点、今回の財政検証で押さえておきたい点は、「所得代替率(年金財政)維持のために示されたオプションについて」です。
1つ目は、年金の受給開始を繰り下げた場合で、2つ目は高齢世帯の保険料拠出期間を延長した場合です。現行の厚生年金保険は70歳まで保険料納付が可能で、しかも受給開始を遅らせると年金受取額が増える仕組みになっています。
長く勤めることは給与収入を得ながら、さらに公的年金の所得代替率も高めることにも繋がります。セカンドライフの不安に対して、退職前の選択肢による具体的アプローチは参考にできそうです。
政府のさらなる対応と私たちのマインドチェンジが必要
次回の財政検証に向けて所得代替率が50%を維持される見通しとなり、目先の健全性は維持されたことになります。
一方、長期の視点で示唆された点としては、女性や高齢者の労働参加率を高めていくことで給付と負担のバランスが維持しやすくなること、それに向けた年金制度改正や労働市場の改革が急務であることも提言されています。
例えば、子育て世代がパートに出ても所定労働時間以下の場合は厚生年金に未加入となるため老齢年金を確保できないなど加入対象の拡大や、高齢者の保険料納付可能年齢の引上げや勤労意欲低下にも繋がっている在職老齢年金の廃止または緩和にも触れています。
超高齢社会を迎え、課題先進国となった日本は、公的年金の範疇だけで課題に取り組むには限界があります。よって女性も高齢者も全員が参加しやすい社会システムへと全体の見直しに政府も着手しています。
一方、その変化に対応するために、私たちも自身の生活設計に対して主体的に自己責任を持って準備していくといったマインドチェンジが、より一層、求められてくるのかもしれません。