米中互いに振り上げた拳(こぶし)の落としどころが見つかるまで、金相場は上昇か

 以下は、先ほどの図「足元の金相場を取り巻く環境」をもとに作成した、筆者が考える今後の金相場を取り巻く環境のイメージ図です。

図:今後の金相場を取り巻く環境(イメージ)

出所:筆者作成

 目下、複数の金相場の上昇要因を発生させている「武力衝突リスクの発生の種をまく」、「米中貿易戦争を発生・激化させる」、「米金融緩和 実施・強化に向けて圧力をかける」という、トランプ大統領が行っている施策が、2020年11月3日(火)の大統領選挙前まで、どのように変化するのかを考えます。

 トランプ大統領が、残りおよそ1年3カ月の任期を全うすべく、各種施策を強化した場合、「武力衝突リスクの発生の種をまく」は、制裁対象国・中東等以外でのリスクを発生させる要因に、「米中貿易戦争を発生・激化させる」は、米中以外で貿易摩擦を激化させる要因に、「米金融緩和 実施・強化に向けて圧力をかける」は、さらに踏み込んだ金融緩和を実施する要因になると筆者は考えています。つまり、残任期のトランプ大統領の施策は、間接的に、金価格上昇要因の強化につながる可能性があるということです。

 劇場化した米中の貿易上の対立は、自国のみの利益を主張せず、全体的な利益を追求することを目指してきた以前までのムードを変え、他国よりも有利に貿易を行う事を目指し、そのための強い交渉・施策の実施は是であるというムードを醸成した、という意味では、足元の米中以外の国々における貿易上の摩擦もまた、トランプ大統領が間接的に影響していると考えられます。

 均衡が保たれていた環境の中、自国第一主義のムードが顕在化すると、それは2国間の貿易の問題から、民族・イデオロギーの問題に発展する可能性が生じます。こうなると、貿易だけの問題ではなく、解決するために非常に長い時間と多くの労力を伴う感情論の問題に発展する懸念が生じます。

 2018年春ごろに、米中間で関税の引き上げ合戦が始まりました。その後、安全保障上の問題という大義名分のもと、米国による中国の個別ハイテク企業への制裁が始まりました。

 中国は関税を引き上げ、米国産の農産物などの不買を行うなど、態度を硬化させました。また、これらの措置に加え、貿易の調整弁とも言える通貨の操作した(人民元を切り下げた)疑惑が生じました。

 そして、米中間では、関税や特定品目の不買、通貨などの貿易に関わる争いに加え、航路などの交通事情、宇宙開発に至るまで、(北朝鮮への関与度も?)多岐にわたる分野で争いが目立ち始めています。

 国のリーダーの任期という点で言えば、習近平国家主席が事実上無期限である一方、トランプ大統領の任期は残り1年3カ月程度です。この点は、トランプ大統領が、2020年11月の大統領選挙で再選し、もう4年間、米国の大統領を継続したいと考える動機になっている可能性があります。

 米中互いに、振り上げた拳(こぶし)の落としどころが見つかるまではこの争いは続き、その結果、伝統的な金価格の上昇要因が同時に発生し続け、金価格は大きな上下を伴いながらも、底値を切りあげる展開になると筆者は考えています。