小規模・中小企業の多さが生産性向上を妨げる
私は36年間、日本経済の分析に携わってきました。日本には、技術力が高く、人材が優秀で、勤勉に働き、社会は安定して治安がいいという強みがあるのに、生産性は28位にとどまっています。スペインとイタリアは、生産性は31位と33位ですが、労働人口では24位と30位。国際競争力は19位と21位。これらの順位はほぼ一致しています。日本の国際競争力は5位なのに、生産性は28位。両者のギャップが世界一開いています。
生産性の低さについて、「会議が多い」とか「農耕民族だから仕方ない」などという人がいますが、それらを裏付けるデータはなく、感情論に過ぎないことが分かっています。でも、どこかに謎を解く鍵があると思い、36年間追ってきたのですが昨年8月、ようやく謎を解く鍵を見つけました。日本とイタリア、スペイン、ギリシャの共通点はほとんどないのですが、一点だけありました。それは従業員20人未満の企業で働く労働者人口の比率が、日本とイタリアなどの国とでは、ほぼ変わらない水準にあるということです。
一方米国はその割合が低く、デンマーク、ドイツ、ベルギーなども近い水準です。米国の強みは成長性の高いベンチャー企業の多さと解釈されることが多いのですが、最大の強みは従業員20人未満の会社の割合が著しく少ないということです。データで見ると従業員250人以上の企業の比率は米国49.8%、日本はギリシャと並ぶ12%です。
小規模な企業の給料が全体として低いことは、日本も海外も同じです。日本の場合、従業員10人未満の平均給与(年収)は300万円ほどで、企業規模が大きくなるほど年収が高くなります。企業規模が大きくなれば、当然ながら労働の分割ができて、従業員の専門性が上がり、労働に余裕が生まれ、商品開発など将来の投資のための作業ができるので競争力が高まり、さらに規模が大きくなることができるのです。
経営者は積極的に生産性向上に関与すべき
現在日本の企業数は360万社あり、ほとんどが小規模・中小企業です。この数は2060年には150万社まで減ると予測されています。厳しい言い方ですが、もし予測通り減らなければ日本経済はだめになり、減っていけば再び経済成長が望める構造に変わるでしょう。
小規模・中小企業の減少が失業率の向上につながるというのは勘違いです。人口減少により、企業数が減少しても失業率は増えません。労働者が集約されるだけです。
これまでの日本経済は人口増加型資本主義でした。「いい物をより安く」が通用したのは、人口が増加して需要が増え続け、商品の単価を下げることで需要が喚起されてより利益が出る環境があったから可能でした。人口が減少する人口減少型資本主義の時代では、単価を下げても短期的に需要を喚起できるだけで長期的には減り続けます。「よりいい物をより高く」して生産性を高めなければ生き残れなくなるでしょう。
人口減少時代の生産性は自動的に高まるものではありません。社長が生産性向上を図ると決めて、能動的に動く必要があります。
欧州ではこんな実験が行われました。最低賃金を強制的に引き上げる指導をすれば、生産性が上がるのではないかという実験です。一番の成果を出したのは英国です。1999年に最低賃金を3.60ポンドとしてからほぼ毎年引き上げられて、2018年は7.83ポンドになりました。2.2倍の引き上げです。年平均引き上げ率は4.17%。これにより生産性は先進国中最高水準の1.7倍に向上しました。