S&P500は暴落の8月5日でも年初来+13.5%
7月23日にはダウが史上最高値を更新し、26日にはナスダック総合指数とS&P500種指数も最高値で引けている。一方、米国株が急落した8月5日時点でも、ダウは昨年末比10.3%、ナスダック総合指数は16.4%、S&P500は13.5%の値上がりで、いずれも2ケタ上昇をキープしている。7月下旬の株価上昇がショック安の「のりしろ」となった形だ。
しかも、FRBは7月31日に0.25%の金利引き下げを実施し、市場に年内追加利下げ観測を強く植え付けた。トランプ氏による0.5%の金利引き下げを拒んだ点だけをみれば、トランプ氏の敗北と解釈できるが、株安時の緩衝材となる追加利下げ観測の強まりはトランプ氏にとって好都合でさえある。
今年5月も同様の展開だった。5月3日公表された4月の雇用統計は失業率が49年ぶりの水準に低下し、景気の目安とされる非農業部門の新規雇用者数は市場の事前予想の1.5倍だった。その3日後にトランプ氏は制裁関税を発表している。まず「のりしろ」を確保し、その上で市場の混乱を招く施策を打ち出すのがトランプ氏の戦術と言えそうだ。
トランプ氏の対中戦略のベースが景気や株価だとすれば、注目すべきはS&P500だろう。投資大国の米国で最も大きいETF(上場投資信託)は「スパイダー(略称SPDR)」。米ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズが運用するS&P500連動型ファンドで、純資産額は約30兆円と世界最大を誇る。
来年11月の再選を目指すトランプ氏にとってSPDRの運用成績がマイナスに転落することは支持率低下に直結しかねず、S&P500の前年割れ回避は隠れた至上命題だろう。一方、株価が上昇すればするほど、トランプ氏には強硬な対中政策が可能になるとも言える。
最悪のシナリオはトランプ氏が株価動向を読み違えた場合だろう。これまでは株価を味方につけてきたが、米国の景気指標は徐々に悪化している。株価下落の「のりしろ」を確保したつもりで対中攻勢を強め、株価が下げ止まらなかった場合、トランプ氏は支持を失う。トランプ氏が進めてきた株高政策への信頼感が後退すれば、株価の大幅下落が待っている。