<今日のキーワード>

 2020年1月に船舶が排出するガスに含まれる硫黄分に対する『環境規制』が強化されます。国内外を問わず全ての海域で守らなければならず、対象にならなかった船舶もあった従来の『環境規制』に比べて適用範囲も広く厳しい規制内容となっています。今回の『環境規制』強化は、コスト増要因となる他、海上運賃や燃料油の商品市況など影響は広範に及びます。ここでは海運、石油業界などへの影響などをみていきたいと思います。

 

【ポイント1】『環境規制』で船舶用燃料油の硫黄含有量基準を強化

 国連の専門機関である国際海事機関(IMO)は船舶用燃料油の硫黄含有量基準を強化し、2020年1月から、現行の3.5%から0.5%に引き下げます。海運業界は燃料の切り替えか、気体洗浄装置(スクラバー)を設置するかの対応が必要になります。スクラバーは海運会社にとって負担が大きいため、追加コストをもっとも抑えられる軽油と重油を混ぜた「適合油」への切り替えが中心となりそうです。

 

【ポイント2】『環境規制』強化への思惑などから海運市況が上昇

原油は軽質油へ需要シフトへ

 海運業界は、燃料油の切り替えなどにより国内大手では1社当たり1,000億円規模のコスト増を見込むなど危機感をつのらせていました。ところが、ばら積み船の総合的な値動きを示すバルチック海運指数が7月には5年7カ月ぶりの水準まで上昇、国内大手の4-6月期の業績も改善しました。背景には規制に対応できない船の廃船や規制対応のための改修ラッシュに加えて、規制強化後、燃費改善のため減速して航行する船舶が増え、需給が引き締まるとの思惑もあるとみられています。

 石油業界への影響も広範に及びます。現在主に船舶で使用される高硫黄C重油はそのままでは燃料に使えないため、軽質油などの低硫黄原油への需要シフトと軽油の値上がりの可能性が指摘されています。原油指標では軽質油の米国のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が軽質と重質の間の中質油であるアジアのドバイ原油に対して評価が高まるとの見方も出ています。

 

【今後の展開】『環境規制』強化を追い風にできるかに注目

 今回の『環境規制』はこれまでにない厳しい規制で、今後も影響が拡大し、対応策の是非で企業の経営内容に大きな格差がつく可能性があるとみられています。日本の大手の海運会社は先行して燃費性能の高い新造船の導入を進め、造船は優れた省エネ技術を有しています。今回の『環境規制』強化を追い風にして関連する国内企業が競争力を高めることができるか注目されます。