サイクル自体が変容している
実は、FRBが景気のこのステージに利下げに転じられること自体に、サイクルの異変が見て取れます。背景には2000年代の低インフレの潮流があります。米景気が10年拡大し続けてなお、インフレ率は年率2%そこそこ。
2018年に、賃金伸び率がようやく3%台へ上がり、インフレ率の2%台への上昇を見越して、利上げが繰り返されました。それが景気「成熟」局面の株価急落を招いたのですが、低インフレが続いていたお陰で、FRBは利下げに回帰することが可能でした。
図1上段は、インフレが比較的高かった時代のサイクルを描いています。株価は景気に先行し、インフレが景気に遅行するため、政策金利も遅行し、ドル/円はさらに遅れる巡り合わせでした。この時間差を活かすことが投資サイクルの有効な狙い目でした。
図1下段で、低インフレ時代になると、低金利が長引き、景気拡大と株高もサイクルが間延びして進みがちです。企業債務や株式ロングなど金融ポジションが積み上がると、その反動が過激になり、景況感悪化からドル安まで、サイクルの時間差は縮まって一緒に動きやすくなります。
その一方で、低インフレ環境は、FRBの早い金融緩和対応も可能にします。こうして、利下げで住宅が持ち直し、金融相場っぽい株高になり、景気は「軟化~下降」局面の改善の兆候と混在しつつ「成熟」局面を生き長らえる形になっています。
図1:米景気と市場の時間差サイクルの変容