自社株買いは、なぜ株主への利益配分になるのか?

 自社株買いとは、文字通り、上場企業が自分の会社の株を買い取ることです。たとえば、「トヨタがトヨタ株を買う」「NTTドコモがNTTドコモ株を買う」のが、自社株買いです。それは、なぜ、株主への利益配分になるのでしょうか?

「自社株を買うんだから、株価が上がるんでしょ」と、自社株買いの意味を「買いが入る」という需給材料だけと考えている方もいます。

 確かに「自社株買い」を発表した企業の株価が、短期的に大きく上がることもあります。自社株買いをネタに、短期筋が買い上がると、そうなります。でも、それだけならば、短期的な株価材料にしかなりません。企業の投資価値が変わらなければ、いずれ売られて、元の株価に戻るでしょう。

 自社株買いの意味は、「買って株価を押し上げる」ことではありません。「1株当たりの利益を増やす」ことにあります。

 自社株を買うと、発行済み株式数が減ります。会社の利益総額が変わらなければ、1株当たり利益が増えます。「1株当たりの利益が増える」ことを好感して株価水準が高くなることが期待されます。

 少しわかりにくかったかもしれないので、「たとえ話」で説明します。40個のケーキ(企業の純利益)を株主10人で均等に分け合うことを考えてください。1人4個ずつもらえます。ここで、企業が自社株買いを実施し、株主2人の株を買い取ったとします。すると、株主数は8人に減ります。すると、1人当たりのケーキの割り当ては、5個に増えます。

 自社株買いとは、株式数を減らすことで、1株当たりの分け前を増やすことにあります。

自社株買いは、会社にもメリットになる

 自社株買いは、株主にメリットが大きいですが、会社にもメリットがあります。買い取った自社株に対して、会社は配当金を払わないで済みます。買いつけた株数の分だけ、配当金の支払い総額を減らすことができます。

 米国企業は、自社株買いを、財務戦略の一環として重視しています。昔、米国企業の投資家説明会で、自社株買いの目的を「自社株への投資が、一番利益率が高いので実施する」と説明していたのを聞いたことが印象に残っています。

 簡単な例で説明しましょう。

 A企業が、余剰キャッシュを10億円持っていたとします。その使い道に、(1)設備投資、(2)借金返済、(3)自社株買い、(4)大口定期預金の4つの選択肢があったとします。

(1)設備投資のニ-ズなく、期待できる投資利回りは2%
(2)借入金利は1.5%
(3)自社株の配当利回りは3%
(4)大口定期預金の利回りは0.01%

 この場合、自社株買いの利回りが一番高くなります。配当金は、税引き後利益から払われます。配当金を減らせば、税引き後で3%のリターンが得られます。税引き前では、4.5%程度の高い確定利回りが得られる計算となります。

 このような場合に、財務戦略として自社株買いを実施することが、「会社にとって一番利益率の高い投資先」となるわけです。米国企業は、そういうことを説明していたのです。