「自社株買い」の良いところは、株主だけでなく、企業にもメリットがあること

 自社株買いを実施する企業がどんどん増えています。5月23日の日本経済新聞によると、2018年度に日本企業が実施した自社株買いは6兆680億円に達し、日銀のETF買い(約5兆6,500億円)を上回り、日本株の最大の買い主体となりました。2019年度も6兆円を超える自社株買いが実施される見通しです。

 自社株買いが増える理由は、明快です。株主、企業の両方にメリットがあるからです。

【1】株主にとってのメリット:株主への利益配分となる
【2】企業にとってのメリット:配当金総額が減る。配当負担が減る

 株主への利益還元策として、自社株買いと比較されるのが、「増配」(配当金を増やす)です。増配だと、株主にはメリットがありますが、企業にはメリットがありません。企業にとっては配当負担が重くなるだけです。

 そのような事情から、米国では株主還元として、増配よりも自社株買いを選ぶ企業が増えています。投資家も、増配より自社株買いを歓迎する傾向があります。

 日本でも、借金の返済が進み財務内容が良好な企業が増えたことから、今後は、増配よりも自社株買いを重視する企業が増えると考えられます。

2019年度、319社で総額4兆1,867億円の自社株買い決議

 自社株買いは、2019年度もさらに増加する見込みです。4月1日から7月22日までに、319社が総額4兆1,867億円の自社株買いを決議しています。うち、500億円以上の自社株買いを決議した21社は、以下の通りです。

4月以降に500億円以上の自社株取得枠を決議した21社

コード 銘柄名 決議日 総額上限 (億円)
4689 ヤフー 5月8日 5,265
9437 NTTドコモ 4月26日 3,000
7203 トヨタ自動車 5月8日 3,000
8058 三菱商事 5月9日 3,000
9432 日本電信電話 5月10日 2,500
6758 ソニー 5月16日 2,000
4307 野村総合研究所 6月18日 1,600
9433 KDDI 5月15日 1,500
8035 東京エレクトロン 5月27日 1,500
8604 野村HD 6月18日 1,500
7181 かんぽ生命保険 4月4日 1,000
8802 三菱地所 5月14日 1,000
8316 三井住友FG 5月15日 1,000
6753 シャープ(優先株) 6月11日 971
8001 伊藤忠商事 6月12日 700
7741 HOYA 5月7日 600
4452 花王 4月24日 500
6954 ファナック 4月24日 500
7751 キヤノン 5月9日 500
2432 ディー・エヌ・エー 5月10日 500
5020 JXTG HD 5月13日 500
出所:日経QUICK

自社株買いは、なぜ株主への利益配分になるのか?

 自社株買いとは、文字通り、上場企業が自分の会社の株を買い取ることです。たとえば、「トヨタがトヨタ株を買う」「NTTドコモがNTTドコモ株を買う」のが、自社株買いです。それは、なぜ、株主への利益配分になるのでしょうか?

「自社株を買うんだから、株価が上がるんでしょ」と、自社株買いの意味を「買いが入る」という需給材料だけと考えている方もいます。

 確かに「自社株買い」を発表した企業の株価が、短期的に大きく上がることもあります。自社株買いをネタに、短期筋が買い上がると、そうなります。でも、それだけならば、短期的な株価材料にしかなりません。企業の投資価値が変わらなければ、いずれ売られて、元の株価に戻るでしょう。

 自社株買いの意味は、「買って株価を押し上げる」ことではありません。「1株当たりの利益を増やす」ことにあります。

 自社株を買うと、発行済み株式数が減ります。会社の利益総額が変わらなければ、1株当たり利益が増えます。「1株当たりの利益が増える」ことを好感して株価水準が高くなることが期待されます。

 少しわかりにくかったかもしれないので、「たとえ話」で説明します。40個のケーキ(企業の純利益)を株主10人で均等に分け合うことを考えてください。1人4個ずつもらえます。ここで、企業が自社株買いを実施し、株主2人の株を買い取ったとします。すると、株主数は8人に減ります。すると、1人当たりのケーキの割り当ては、5個に増えます。

 自社株買いとは、株式数を減らすことで、1株当たりの分け前を増やすことにあります。

自社株買いは、会社にもメリットになる

 自社株買いは、株主にメリットが大きいですが、会社にもメリットがあります。買い取った自社株に対して、会社は配当金を払わないで済みます。買いつけた株数の分だけ、配当金の支払い総額を減らすことができます。

 米国企業は、自社株買いを、財務戦略の一環として重視しています。昔、米国企業の投資家説明会で、自社株買いの目的を「自社株への投資が、一番利益率が高いので実施する」と説明していたのを聞いたことが印象に残っています。

 簡単な例で説明しましょう。

 A企業が、余剰キャッシュを10億円持っていたとします。その使い道に、(1)設備投資、(2)借金返済、(3)自社株買い、(4)大口定期預金の4つの選択肢があったとします。

(1)設備投資のニ-ズなく、期待できる投資利回りは2%
(2)借入金利は1.5%
(3)自社株の配当利回りは3%
(4)大口定期預金の利回りは0.01%

 この場合、自社株買いの利回りが一番高くなります。配当金は、税引き後利益から払われます。配当金を減らせば、税引き後で3%のリターンが得られます。税引き前では、4.5%程度の高い確定利回りが得られる計算となります。

 このような場合に、財務戦略として自社株買いを実施することが、「会社にとって一番利益率の高い投資先」となるわけです。米国企業は、そういうことを説明していたのです。

自社株買いのメリット、おおまかな計算方法は?

 自社株買いを発表する企業が増えています。発表された自社株買いが、株主にどのくらいのメリットがあるか、おおよその見当をつける方法を、お教えします。

 発表された自社株買いが、すべて実行されるとした場合、発行済株式数が何%減るのか、見ると良いです。

 具体例を見てみましょう。以下は、自社株買いの常連、NTTドコモが2019年4月26日に発表した自社株買いの概要です。

(1)取得対象の株式の種類:自社の普通株式
(2)取得し得る株式の総数:1億2,830万株(上限)※発行済株式総数に対する割合3.85%
(3)株式の取得価額の総額:3,000億円(上限)
(4)取得期間:2019年5月7日から2020年4月30日
(5)取得方法:東京証券取引所における市場買付

 ここで一番注目したいのは、赤で表示した「発行済株式総数に対する割合」です。3.85%となっています。上限株数を買い付けると、発行済株式総数が、3.85%減少します。ということは、1株当たり利益が、おおむね3.85%増えるわけです。

 つまり、PER(株価収益率)などの株価評価が変わらなければ、自社株買いで、1株当たり利益が3.85%増加し、株価が3.85%程度、上がると期待できるわけです。

 厳密に計算すると、もう少し異なる結果となりますが、ざっくりしたメリットの把握としては、上記でオーケーです。

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