米中の景気減速で貿易摩擦はディール外交へ

 トランプ大統領は、世論調査による自身の「支持率」と米国株価の連動性を常に気にしているとの説は有名です。米国では、一般家計の金融資産のうち株式や株式ミューチュアルファンド(投資信託)が過半を占めています。株価下落がもたらす景況感の悪化や消費活動の弱まりは「逆・資産効果」と呼ばれ、支持率に影響を与える傾向があります。

 図表2は、米ダウ平均とトランプ大統領の支持率(全国の世論調査平均)の推移を示したものです。最近の貿易摩擦激化と株価下落で大統領の支持率は急落しています。この現実は、来年の選挙で再選を目指すトランプ大統領に、「有権者は何を求めているか」を強く意識させると考えています。

 トランプ大統領は早晩、株価回復と支持率回復のため、米中交渉を「ディール外交」に結びつける時期を探ると思われます。6月下旬は、月末に開催されるG20に向けた水面下の調整を巡る期待が勢いを取り戻していく可能性がありそうです。

図表2:トランプ大統領の支持率と株価の推移

出所:Real Clear Politics、Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年5月29日)

「ディール外交」に向けた意識は中国の習近平国家主席も共有せざるを得ないと思います。2018年に始まった貿易摩擦は世界の貿易量を縮小させ、両国の設備投資計画やサプライチェーン(部材の供給網)に悪影響を与えてきました。昨年の末には世界的な株価急落をもたらし、トランプ大統領の支持率急落と中国景気の減速加速不安を招き、米中が歩み寄る契機となりました。

 米国も中国も今春の景況感回復を背景に強気姿勢を再び打ち出し、5月初にトランプ大統領が対中関税を引き上げ、中国が報復関税で応じたことで株価は再び急落。ファーウェイ排除問題も米中日の成長率見通し下押し圧力となっています(図表3)。

 中国は国有企業の整理、景気の減速、外資企業の生産拠点移転で失業者増加に直面しています。同国にとり政治的な不安要因である6月4日(天安門事件30周年)を無事に乗り越えれば、多少の妥協、譲歩、一部の合意先送りを交えても、米国と交渉をまとめることが得策であると考えられます。こうしたケースは、米国と日本の株価反発要因となるでしょう。

図表3:米国と中国の目先の経済成長率見通し

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019年5月29日)