トランプ氏がこうした楽観的な見方を示したのは、株式市場への口先介入が目的だろう。13日のNYダウ平均株価が617.38ドル安と急落したのを見て、あわてて助け舟を出した格好だ。

 トランプ氏の支持率は、米世論調査会社ギャラップが4月17~30日に実施した調査で46%と過去最高を記録。貿易戦争でも、中国が米国への報復措置として打ち出した関税適用額は600億ドルと、米国が10日付で導入した2,000億円ドルの半分にも満たず、交渉は明らかにトランプ氏優位で展開されている。

大統領の支持率は「ダウ」が決める!?経済が好調だからできた、貿易戦争への挑発

 ただ、無敵に見えるトランプ氏に唯一の弱点があるとすれば、株価だ。米国では家計資産に占める株式や投資信託の比率が高く、「大統領支持率はダウが決める」と言われるほど。中国との駆け引きを有利に進めても、株価が下がってしまえば有権者の不評を買い、大統領の支持基盤が揺らいでしまう。今後も株価が急落するたびに、株式市場への「口先介入」が繰り返される可能性が高い。

 来年11月の大統領選でトランプ氏が再選されるには、あと1年半ほど高支持率を維持しておく必要がある。再出馬断念に追い込まれれば、米中交渉に投じたこれまでの労力は水の泡。米国内でトランプ氏は「混乱を招いた大統領」のらく印を押され、交渉は中国の逆転勝利に終わることになる。来年11月の再出馬断念を中国が狙っていることをトランプ氏は熟知しているからこそ、交渉には必ず具体的な期限を付けている。

 話は戻るが米国が10日付で実施した制裁関税引き上げは5月6日付けで発表された。これより前の3日には4月の雇用統計が公表され、失業率は3.6%と49年ぶりの水準に低下し、新規雇用者数は市場予想の1.5倍に相当する26.3万人増となるポジティブサプライズだった。経済指標が米国景気の順調な拡大を示し、株式市場が多少のネガティブ・サプライズに耐えられることを確認した上で、中国に揺さぶりをかけたのだ。