「ついに米国の景気後退がやってくる」と心配する日本人
ここ数年、日本に行くたびに感じることがあります。それは、米国のリセッション(景気後退)を予想する人が驚くほど多いことです。
そのほとんどが単に「金融危機から10年を超えたので」という理由です。
歴史的に米国では、おおむね10年に1回の頻度でリセッションは確かに訪れています。しかし、これは私に言わせると、チャートでXX日移動平均線を上回ったとか、RSI(相対力指数)がどうだとか、テクニカルで経済を予想しているのと同じことです。本当にテクニカル分析が当たったり、10年に1回リセッションが来たりするのであれば、分析という仕事は楽なもの。残念ながら、そのような楽な分析に資本主義がごほうびを与えることはないと思います。
このリセッション予想をよく聞くようになったのは、2015年後半くらいだったと思います。金融危機からある程度時間が経っていることに加えて、当時よく理由として挙げられたのが中国経済の減速です。実際、当時は講演させていただく前に来場者からいただいた質問の多くが、米国のリセッションに関するものでした。ダウ平均株価の水準は当時1万8,000ドル近辺でしたが、現在はその1.5倍の2万7,000ドル近辺で取引されています。
米国は海外要因でリセッションに陥ったことはない
米国はこれまで、海外の経済要因でリセッションに陥ったことはありません。もちろんこれからそのようなケースが出てくる可能性はあるでしょう。しかし、今までなかったことが起こるためのハードルはかなり高いはずです。米国経済に大打撃を与えるようなイベントでもない限り、今後もないでしょう。少なくとも米中貿易問題やBrexit(ブレグジット:英国のEU[欧州連合]離脱)が、海外要因として初めて米国経済をリセッションに陥れるイベントとは思えません。なのになぜ、日本には海外要因を必要以上に気にする人が多いのでしょうか。
それは日本がずっと貿易黒字国であって、海外の需要に左右される経済体質にあるからでしょう。リーマン・ショックなどの金融危機がまさにそうであったように、米国のイベントなのに、その半年後には日本経済に大打撃をもたらしました。
しかし、忘れてはならないことは、米国が貿易赤字国だという事実です。貿易赤字国であることは海外にモノを売るよりも買う方が多く、海外の景気が悪くなったら、むしろモノが安く買えて有利な立場になります。
米中貿易問題は、昔起こったような「世界貿易の減少→大恐慌」を想起させ、メディアが読者を怖がらせ、クリック数や視聴者、購読者を増やすのに格好のテーマなのかもしれません。実際のところ重要なことは、米国が中国にモノを売っている金額は年間たったの1,300億ドルであって、19兆ドルの米国経済が米中貿易問題からどれだけの影響を受けるかといった点です。数字などで考えればすぐに分かることです。
私は米国で、これまで3回のリセッションを経験しています。そのいずれもが、資産価格の下落(一方で負債額は一定)に伴うバランスシート調整でした。最近は経験していませんが、米国経済がリセッションに陥るもう一つの要因はインフレです。1970年代の石油ショックがこの代表的な例です。
もちろん将来、米国経済をリセッションに陥らせる他の要因が出てくるかもしれません。しかし、米国経済の7割は個人消費ですから、バランスシート調整やインフレと並んで、個人が財布のヒモをグッと締めようと思える要因でなくてはなりません。
現在の状況を見てみると、米国の銀行のバランスシートはこれ以上考えられないほど健全で、インフレも海外経済が不調なおかげでFRB(米連邦準備制度理事会)の目標である2%を下回る状況がずっと続いているので、リセッションを起こそうと思っても困難な状態です。いつかリセッションは訪れるのでしょうが、リセッションをずっと予想し続けるのは、長生きしている老犬を見て「いつか死ぬ」と予想しているのと同じだと思います。









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