確定給付の企業年金は、望めばiDeCoへ移すことができる

 会社が確定給付企業年金を実施していた場合、中途退職者は受給開始年齢(多くの場合60歳以降)に達していないため、退職一時金として現金精算されることになります。実を言うと、本人が希望すればiDeCoなどの制度へ資産を移すことができます。

◆制度上の選択肢としては3つの選択肢があります。

A:転職先の確定給付企業年金に移す
B:企業年金連合会に移す(通算企業年金)
C:iDeCoに移す

また他に、
D:今の企業年金制度で年金受給権があるなら、そのまま留め置いて60歳以降に受け取る
という方法もあります。

 ただし「A:転職先の確定給付企業年金に移す」については、転職先の制度に受け入れ体制がないといけず、残念ながら多くの確定給付企業年金は受け入れをしていません。

 次に「B:企業年金連合会に移す(通算企業年金)」ですが、こちらは企業年金連合会が実施している制度へ資産を引き継ぐものです。この場合、65歳から終身年金としてもらえます。資産を移すとまず事務費が引かれ、その後の期間に応じて運用利回りが付与し、65歳から受け取れます。ちなみに45歳未満で移換をすると、年1.5%の予定利率がつきます(将来高金利になったときは付利される可能性があるが保証はされない)。

 また、一時金として65歳まで解約ができません(死亡時を除く)。詳しくは企業年金連合会のHPで確認してみてください。

 「C:iDeCoに移す」については、iDeCoの口座に受け取り額を引き継ぐことになります。移したあとは、過去積み立てた分や将来積み上げていく分をiDeCoに一体化し、管理されることになります。

 最後の「D:今の企業年金制度で年金受給権があるなら、そのまま留め置いて60歳以降に受け取る」については、一般的に、20年以上の勤務期間を経過するとその企業年金で年金受け取りができる権利があります。これは退職しても有効なので、資産をそのまま残して、60歳以降(規約による)に受け取り請求をして年金をもらうこともできます。その間の利回りは各規約によります。また、企業年金が解散になったときは資産が分配されることになります。

 かつて、年金受給権(多くの場合加入20年で権利獲得される)がある場合、その企業年金に留め置き、その企業年金から年金受け取りをするしか選択肢がありませんでした。しかし2018年の改正により、定年退職していなければ他の制度に資産を引き継げるようになりました(A:~C:の選択肢)。ただし注意点がひとつあります。退職時に、現金受取を完了させてはいけないということです。銀行口座の振り込み指定書類に記入してしまい入金が完了すると、iDeCoなどに引き継げないことになります。もし移したいのであれば、退職時の説明を聞いたときに「脱退一時金相当額の権利義務移転をするつもりです」と説明して、一時金受け取りの書類には記入しないでください。(そのあと気が変わった場合、現金受け取りにすることもできます)

 

確定拠出年金は転職にともない、全額を持ち運ぶのが原則

 今まで勤めていた会社が確定拠出年金を実施していた場合はどうなるでしょうか。この場合、60歳までは原則受け取れません(資産額が1.5万円以下の場合のみ無条件で解約も可能です。詳しくは、社内の担当者へ問い合わせてください)。

 退職時は、必ずポータビリティを行使して資産を持ち出さなければなりません。このルールはかなり厳格です。半年間手続きを怠ると強制的に企業型確定拠出年金からあなたの資産は排出され、国民年金基金連合会(iDeCoの実施団体)に強制移換されるほどです。そうなった場合、手数料を引かれるうえ無利息になるため、自分で手続きしたほうがよいでしょう。

 転職先が企業型の確定拠出年金を実施していた場合は、転職先の人事・総務部へ、前職で確定拠出年金をやっていた旨を連絡すれば、引き継ぎ手続きが行われます。最近では手続き漏れがあっても金融機関間で情報交換し、資産を引き継ぐ手続きが行われるようになりましたが、自分で申し出ておくほうが確実で安心です。

 企業型確定拠出年金がない会社に転職した場合は、iDeCoに資産を移すことになります。運営管理機関は退職をきっかけに、iDeCoの口座開設申し込みを用意していますので、書類を取り寄せて口座開設をするといいでしょう。