米中貿易交渉のシナリオ別相場見通し
米中貿易摩擦は、トランプ政権が中国製品に対する追加関税(2000億ドル分の中国製品に対する関税引き上げ)を当初期限の3月1日に発動せず、対中貿易交渉を優先させています。前述のように、中国市場はすでに景気対策の効果期待と米中貿易摩擦の緩和を「メインシナリオ」として織り込み始めた感があります。
英紙ファイナンシャル・タイムズは4月2日、「米中当局者、貿易合意に向けた問題の大半を解消」と報道しました。GDP(国内総生産)で世界1位と2位の米国と中国が貿易面の対立激化を回避できれば、サプラインチェーン懸念や設備投資需要の減退懸念が緩和に向かい、日本の外需や業績見通しにもプラスとなりそうです。ただ、中国に対する批判は、大統領府に留まらず米議会内でも根強いため、貿易面で合意しても、安全保障面では対中強硬姿勢を維持する可能性があります。
一方、中国の習近平政権も国内事情から譲歩できず、米中協議が決裂あるいは合意が後ズレしていくリスクも否定できません。現在、中国側は劉鶴副首相が、米国側はライトハイザーUSTR(通商代表部)代表やムニューシン財務長官らが閣僚級協議を続けています。
市場は、米中が首脳会談を経て「何らかの政治的ディール(合意や妥協)」に至ることを期待しています。図表2は、米中貿易交渉のシナリオ別に相場見通しを一覧したものです。メインシナリオ、リスクシナリオ、ベストシナリオの順番で生起確率が高いと考えています。
図表2:米中の貿易交渉シナリオと相場見通し(参考情報) |
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メインシナリオ(米中が一定合意へ) | |
●米中貿易交渉の行方(概略) 閣僚級協議と首脳会談を経て合意内容を発表へ。骨子としては、(1)貿易不均衡是正に向け中国は米農産品、エネルギー、工業品等の購入を拡大、(2)外国企業の技術移転強要や知的財産保護など構造改革と検証方法について一定の合意、(3)関税の一部を引き下げ、(4)サイバー攻撃など安全保障問題は継続協議。 |
●シナリオ別の相場見通し 市場は左記合意をある程度織り込んできたと思われるが、米中が「決裂」を避けたことを好材料とみなし安堵する見込み。米中の景況感改善で、市場は米国株高、ドル高・円安、日本株高で反応すると予想。 |
リスクシナリオ(決裂あるいは米中対立の長期化) | |
●米中貿易交渉の行方(概略) 構造改革の検証プロセスで米中の溝は埋まらず、早期の米中首脳会談には至らず。貿易面で合意はありそうだが、政治ショーの範囲に留まり、米国の対中強硬路線は変化せず。米国は一部の関税を引き上げ、経済面と外交面の冷戦は長期化する。米国は、日本など西側同盟国に対中強硬策を強要する可能性がある。 |
●シナリオ別の相場見通し 米中の貿易摩擦が冷戦に発展することで、世界の景況感、業績見通し、消費者者信頼感は一段と悪化する。市場はリスク回避要因とみなし、米国株安、円高・ドル安、日本株安となりやすい。 |
ベストシナリオ(冷戦入り回避へ) | |
●米中貿易交渉の行方(概略) 貿易不均衡解消策と構造改革の検証で合意。サイバー攻撃など安全保障問題は継続協議となりそうだが、中国は「中国製造2025」をトーンダウンさせ、市場開放と米国との共存共栄に取り組む。トランプ政権は2020年大統領選挙に向けた「外交成果」として有権者に誇示。対中関税を引き下げ、米中の景気は浮揚へ。 |
●シナリオ別の相場見通し 市場は米国の中国に対する勝利とみなし、中国市場も市場開放を好感。米大統領の統治能力を高め、設備投資需要も回復。市場はリスク選好を強め、米国株高、ドル高・円安、日本株高で歓迎する可能性が高い。 |
出所:各種情報や報道より楽天証券経済研究所作成 |