年初来高値を更新した米国と中国の株式市場

 今週は、米国株高、為替の円安、中国株高など外部環境の改善が重なり、日経平均は底堅い動きとなりました。中国で発表されたPMI(企業景況感指数)が予想を上回って改善した他、米中貿易交渉の進展観測、BREXIT(英国のEU離脱)問題で離脱期限が延期される公算が高まったことなどが株式堅調の追い風となりました。

 特に中国市場では、景気対策の効果に期待が広まり、上海総合指数が年初来+29.0%と過去52週高値を更新。香港ハンセン指数も同+16.0%と年初来高値を更新しました(図表1)。米中貿易摩擦の緩和期待は、中国の景況感改善を介して日本の外需回復期待に繋がりやすく、国内の「中国関連株」も総じて下値を切り上げています。

 日銀が4月1日に発表した「短観」で集計平均した2019年度大企業製造業の想定為替レートは108.87円でしたが、ドル円の実勢レートは111円台で推移しており、業績の先行き懸念を緩和させています。米国市場では、S&P500指数が年初来+14.6%と史上最高値まで約2%に迫り、ナスダック総合指数も年初来+19%と最高値更新を視野に入れる堅調となっています。IT(ハイテク)業界で注目されているフィラデルフィア半導体株指数は4月3日に史上最高値を更新しました。米国市場のリスク選好姿勢の改善が日本市場での指数先物買いを促していると思われます。

図表1:中国株式が回復基調を鮮明にしている

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2018/4/1~2019/4/3)  

米中貿易交渉のシナリオ別相場見通し

 米中貿易摩擦は、トランプ政権が中国製品に対する追加関税(2000億ドル分の中国製品に対する関税引き上げ)を当初期限の3月1日に発動せず、対中貿易交渉を優先させています。前述のように、中国市場はすでに景気対策の効果期待と米中貿易摩擦の緩和を「メインシナリオ」として織り込み始めた感があります。

 英紙ファイナンシャル・タイムズは4月2日、「米中当局者、貿易合意に向けた問題の大半を解消」と報道しました。GDP(国内総生産)で世界1位と2位の米国と中国が貿易面の対立激化を回避できれば、サプラインチェーン懸念や設備投資需要の減退懸念が緩和に向かい、日本の外需や業績見通しにもプラスとなりそうです。ただ、中国に対する批判は、大統領府に留まらず米議会内でも根強いため、貿易面で合意しても、安全保障面では対中強硬姿勢を維持する可能性があります。

 一方、中国の習近平政権も国内事情から譲歩できず、米中協議が決裂あるいは合意が後ズレしていくリスクも否定できません。現在、中国側は劉鶴副首相が、米国側はライトハイザーUSTR(通商代表部)代表やムニューシン財務長官らが閣僚級協議を続けています。

 市場は、米中が首脳会談を経て「何らかの政治的ディール(合意や妥協)」に至ることを期待しています。図表2は、米中貿易交渉のシナリオ別に相場見通しを一覧したものです。メインシナリオ、リスクシナリオ、ベストシナリオの順番で生起確率が高いと考えています。

図表2:米中の貿易交渉シナリオと相場見通し(参考情報)

メインシナリオ(米中が一定合意へ)
●米中貿易交渉の行方(概略)
閣僚級協議と首脳会談を経て合意内容を発表へ。骨子としては、(1)貿易不均衡是正に向け中国は米農産品、エネルギー、工業品等の購入を拡大、(2)外国企業の技術移転強要や知的財産保護など構造改革と検証方法について一定の合意、(3)関税の一部を引き下げ、(4)サイバー攻撃など安全保障問題は継続協議。
 
●シナリオ別の相場見通し
市場は左記合意をある程度織り込んできたと思われるが、米中が「決裂」を避けたことを好材料とみなし安堵する見込み。米中の景況感改善で、市場は米国株高、ドル高・円安、日本株高で反応すると予想。
 
リスクシナリオ(決裂あるいは米中対立の長期化)
●米中貿易交渉の行方(概略)
構造改革の検証プロセスで米中の溝は埋まらず、早期の米中首脳会談には至らず。貿易面で合意はありそうだが、政治ショーの範囲に留まり、米国の対中強硬路線は変化せず。米国は一部の関税を引き上げ、経済面と外交面の冷戦は長期化する。米国は、日本など西側同盟国に対中強硬策を強要する可能性がある。
 
●シナリオ別の相場見通し
米中の貿易摩擦が冷戦に発展することで、世界の景況感、業績見通し、消費者者信頼感は一段と悪化する。市場はリスク回避要因とみなし、米国株安、円高・ドル安、日本株安となりやすい。
 
ベストシナリオ(冷戦入り回避へ)
●米中貿易交渉の行方(概略)
貿易不均衡解消策と構造改革の検証で合意。サイバー攻撃など安全保障問題は継続協議となりそうだが、中国は「中国製造2025」をトーンダウンさせ、市場開放と米国との共存共栄に取り組む。トランプ政権は2020年大統領選挙に向けた「外交成果」として有権者に誇示。対中関税を引き下げ、米中の景気は浮揚へ。
 
●シナリオ別の相場見通し
市場は米国の中国に対する勝利とみなし、中国市場も市場開放を好感。米大統領の統治能力を高め、設備投資需要も回復。市場はリスク選好を強め、米国株高、ドル高・円安、日本株高で歓迎する可能性が高い。
 
出所:各種情報や報道より楽天証券経済研究所作成

どうなる?国内の「中国関連株」の行方

 国内市場では、年後半に向けた中国の景気対策効果と米中貿易交渉の進展期待を受け中国関連株に底入れ期待が広まっています。図表3は、2018年4月以降の「日経中国関連株指数」と短期・長期の移動平均線の推移を示したものです。日経中国関連株指数は、中国で積極的に事業展開を進めているグローバル企業50社から構成されている時価総額加重平均指数です。中国関連株は、業績見通しが中国の景況感や設備投資需要の動向から影響を受けやすい特徴があります。

 チャイナリスクと呼ばれた景気の底割れ懸念と貿易摩擦激化懸念を受けて昨秋から年末にかけ下落した中国市場は回復しつつあり、日経中国関連株指数もすでに200日移動平均を上抜け過度の悲観は後退しつつあります。米中貿易交渉の行方にいまだ予断を許しませんが、先行きを予見しようとする株式はチャイナリスクがいったん山を越えたとみているようです。

 重要な点は、これら中国関連株がTOPIXで大きなウエイトを占める主力銘柄であることです。今後は、中国の景況感底入れと米中通商交渉の具体的な進展を確認し、関連株それぞれの業績を見極める展開となりそうです。

図表3:国内の中国関連株の推移(過去1年)

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2018/4/1~2019/4/3)

図表4は、日経中国関連株指数を構成する50銘柄のうち、「年初来騰落率」の降順で20銘柄を一覧したものです。中国株式市場の堅調が、今年後半の景況感や設備投資需要の回復を視野に入れる動きと想定するなら、国内の中国関連株も業績見通しの底入れを確認しつつ、年後半に向けて業績の改善を織り込んでいく可能性があります。下記一覧のなかで、(1)年初来騰落率が二桁以上で、(2)本年度(2020年3月期)の予想EPS(1株当り利益)の前年比増益率(市場予想平均)が二桁以上の伸びが見込まれている銘柄としては、日立製作所(6501)TOTO(5332)京セラ、(6971)TDK(6762)三菱重工業(7011)村田製作所(6981)資生堂(4911)が挙げられます。チャイナリスクの緩和に伴い、年後半に向けて業績が改善すると見込まれる銘柄群に注目したいと思います。

図表4: 日経中国関連株指数の構成銘柄

年初来騰落率ランキング  
  コード 銘柄名 株価
(円)
年初来
騰落率
19年
3月期
予想PER
(倍)
20年
3月期
予想PER
(倍)
20年
3月期
増減益率
(%)
1 8035 東京エレクトロン 17,345 38.6 12.3 16.5 -25.9
2 6273 SMC 43,360 30.4 21.0 22.0 -4.7
3 6501 日立製作所 3,756 28.0 17.0 8.6 98.2
4 6503 三菱電機 1529.5 25.7 14.2 13.9 2.2
5 5332 TOTO 4,765 25.1 25.2 22.6 11.6
6 6954 ファナック 20,745 24.4 27.2 35.0 -22.1
7 6103 オークマ 6,460 22.8 11.6 12.4 -6.7
8 6971 京セラ 6,707 21.8 23.9 16.9 41.3
9 5713 住友金属鉱山 3,557 20.7 13.9 12.9 7.4
10 6762 TDK 9,310 20.6 15.1 13.4 12.8
11 4612 日本ペイントホールディングス 4,500 19.7 34.9 33.3 4.7
12 7011 三菱重工業 4,713 19.1 17.4 15.7 11.4
13 4063 信越化学工業 10,165 19.1 13.9 13.4 3.9
14 6305 日立建機 3,050 18.6 10.0 9.9 1.1
15 6471 日本精工 1,111 17.1 10.0 11.8 -15.3
16 5406 神戸製鋼所 890 16.5 8.6 11.0 -21.5
17 6301 小松製作所 2,752 16.3 10.4 9.9 4.9
18 4183 三井化学 2,873 15.7 7.1 7.2 -2.1
19 6981 村田製作所 5,736 15.1 18.3 15.3 19.2
20 4911 資生堂 7,802 13.2 38.9 31.7 22.9
*上記は、日経中国関連株指数を構成する50銘柄を「年初来騰落率」の降順に示したものです。
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019年4月3日)
 


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