パラジウムは主要4貴金属で、自動車排ガス触媒などの工業用途の割合が最も大きい
パラジウムの消費面に目を向けてみると、90%以上が工業用に用いられていることが分かります。このため、パラジウムはコモディティ(商品)銘柄の分類上、貴金属というカテゴリに入りますが、実態としては、銅やアルミニウムのような産業用金属に近いと言えます。
パラジウムが貴金属に分類されるのは、プラチナと同じような触媒作用を持っていたり、宝飾品の強度を高めたり色味や輝きを変えたりする割金(わりがね)として、金などの他の貴金属と混ぜ合わるなどの使用法があるためです。
また、以下は4つの貴金属の用途の割合です。宝飾品、工業、その他の3つに分類しています。
図:4つの貴金属の用途の割合 (2017年)
工業用途の割合は、4つの貴金属の中でもパラジウムが突出して大きいことが分かります。中でも、パラジウムの自動車排ガス浄化装置向けの用途は工業用途全体のおよそ83%、全消費のおよそ77%です(2017年)。
中国ではパラジウムの自動車排ガス触媒向け消費が拡大
パラジウム消費量のうち、77%が自動車の排ガス触媒向けに使われています(2017年)。そのパラジウムの自動車排ガス触媒向け消費について、国別に見てみると以下のようになります。
図:パラジウム自動車排ガス浄化装置向け消費(国・地域別)
パラジウムの自動車排ガス浄化装置向け消費は年々、増加傾向にあることが分かります。濃淡はありますが、ほとんどの国・地域で増加しています。
特に近年増加傾向にある国・地域における、増加の背景は以下のとおりと考えられます。
【中国】
従前より排ガス浄化装置はプラチナではなくパラジウムを用いて製造している。すでにパラジウムで排ガス浄化装置を作る仕組みができ上がっており、容易にプラチナにシフトすることができない模様。温室効果ガス排出規制について、2018年からは従来のChina4よりも規制が厳しいChina5が中国全土で適用されており、1台あたりの自動車に用いられる貴金属(パラジウム中心)の量が増加したと見られる。2020年からはChina6a、2024年からはChina6bが適用される予定。
【北米】
トランプ米大統領が化石燃料の使用を強く否定せず、自動車業界に対して寛容な姿勢を見せている。EV(電気自動車)に注目が集まっているものの、従来からの内燃機関(エンジン)を動力源とした自動車の生産・販売が継続している。
【欧州】
2015年のフォルクスワーゲン問題が発覚して以降、同域内で主にプラチナが排ガス浄化のための触媒に用いられるディーゼル車の生産が減少し、主にパラジウムが触媒に用いられるガソリン車の生産が増加している。
以下は中国の自動車排ガス浄化装置向けに消費されたパラジウムとプラチナ、ロジウムの量の推移です。
図:中国の自動車排ガス浄化装置向けに消費されたパラジウムとプラチナ、ロジウムの量
増加傾向が継続している中国の自動車排ガス浄化装置向けパラジウム消費には、以下の傾向、特徴が見られます。
・リーマン・ショック後の同国の景気刺激策を機に、自動車排ガス浄化装置向け消費の増加傾向が鮮明になった
・近年、環境規制が厳しくなったことで、自動車1台あたりの同消費が増加していると見られる
・プラチナは同消費において増加する気配がない。ガソリン車向けエンジンを生産する設備が整っていると見られ、目先、プラチナへのシフト(パラジウム消費の減少)は考えにくい
・米中貿易戦争が激化した2018年も、増加傾向が維持される見通しが示されている
また、以下のグラフは、中国における自動車販売台数(乗用車+商用車)と、自動車1台あたりに用いられた排ガス浄化装置向け貴金属の量(筆者推定)を示したものです。
図:中国における自動車販売台数と自動車1台あたりに用いられた排ガス浄化装置向け貴金属の量
OICA(国際自動車工業連合会)のデータによれば、2018年、2000年以降初めて、中国の自動車生産(乗用車と商用車の合計)が前年を下回りました。一見すると、中国の景気減速→自動車生産鈍化→排ガス浄化装置向け貴金属消費量の減少、という連想が働きやすい状況と言えます。
しかし、上図のオレンジ線のとおり、中国で新たに生産された自動車1台あたりの排ガス浄化装置向けの貴金属消費量は、2010年から徐々に増加傾向にあり、2018年は2003年以降の最高となる2.9グラムとなると見られます。
2018年に排出基準China4からより規制が厳しいChina5に中国全土で完全移行したことで、排ガス浄化装置の性能向上を目的に、1台あたりに使用する同装置向けの貴金属の量が今後も増加すると見られます。