iDeCoを参考に考える受け取り方法

 さて、もうひとつのステップは「受け取り期間」です。ここではiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の受け取り方法を参考に、人生100年時代の受け取り戦略について考えてみます。

iDeCoの場合

◎受け取り開始年齢:60~70歳の任意の時点で選択可能

◎受け取り方法:一時金と年金受け取りを選択可能。組み合わせも可能

◎年金受け取りの場合、終身年金商品を購入するか、5~20年の有期年金設定

が法律上の設定です。これを踏まえて人生100年時代について考えると、2つほど受け取り方法のアイデアが浮かびます。

 

パターン1:実際のリタイア年齢まで受け取りを遅らせる

 従来は、老後資産形成の多くが60歳受け取りを想定されてきました。定年退職が60歳で設定されている企業が多く、退職金を受け取りつつ60歳以降に働くというギャップが生じていることもその一因です。しかし、受け取った高額資産は管理面で危うさもあります。一気に取り崩ししなくてもすむよう、できれば受け取りは、実際のリタイア時点まで先送りしたほうがいいでしょう。

 あなたがもし65歳で引退するなら65歳、67歳で引退するなら67歳を受け取り開始時点とするのです。これにより資金寿命を大きく後ろ倒しできることになります。

 

パターン2:セカンドライフの前半を厚く受け取る

次のアイデアは「あえてセカンドライフの前半にたくさんもらう」というものです。

 年金の定期的な取り崩しを想定した場合、長期に渡ってまんべんなく受け取ることを想定しがちです。しかし、現実的には、基礎的な生活費を公的年金で賄う事ができる場合が多く(あるいは生活スタイルをリサイズすることが多い)、私的な老後資金は老後の趣味や娯楽、教養費などに用いられるケースが多々あります。

 総務省の家計調査年報(2017年)をみても、高齢夫婦無職世帯の毎月の不足額5万4,519円ですが、教養娯楽費、交際費の合計額5万2,465円であり、ほぼ等しいことがわかります。

データ出所:総務省の家計調査年報P29 2017年度の表より

 老後の基本的な支出、つまり食費や被服費・日用品費で、年金が不足するというよりは、人間らしく豊かな老後を送るための資金が老後に足りていないというわけです。それこそが自分のお金を取り崩すべきテーマです。

 しかしながら、セカンドライフの自由度は加齢により徐々に制限されていくことになります。65歳と85歳では同じ様な条件で旅行に出かけられるわけではありません。

 だとすれば老後資産をいくつかのブロックに分け、一部については、セカンドライフ前半で集中的に使っていくことができると、老後生活の前半は、経済的余裕を得て充実した生活をエンジョイし、その後体力的な余裕が減ってきたら、のんびりとしたセカンドライフへ移行するマネープランが成り立ちます。

 例えば、65歳から15年間、年96万円を取り崩すと8万円/月の取り崩しを認めることになり、老後資金のうち1,440万円を「これは老後の前半で使ってよい額」と切り分け、安心して使ってかまわない予算に振り替えることができます。

 仮に3,000万円をもって引退したとすると、1,560万円は手つかず75歳以降に残ります。これを4万円/月の取り崩しとすれば、約15年の生活資金として720万円をさらに使い、840万円は90歳以降に残るという計算です。

 実際の計算においては、自分たちの資金額と自分たちの安心を考えて振り分ければいいでしょう。少なくとも無計画にお金を下ろして旅行に出かけることに比べて不安感は減少しますし、長い老後全体の満足度も高まるはずです。

 究極には、公的年金を一銭も受け取らず、全額を取り崩しで賄い、70歳以上になって初めて増額された繰り下げ年金を受け取るという選択肢もあります。ただ、これは勇気のいる行動です。仮に22万円/月で暮らしても、わずか5年で1,320万円が消えていきます。22万円/月の夫婦の公的年金を70歳まで繰り下げしたら42%増額され終身でもらえるわけですが、実行はなかなか難しいでしょう。それが平均余命を考えれば分のいい賭けだよ、と論理的に言われてもです。

 取り崩しはするが「セカンドライフ前半と後半で取り崩しペースを変える」そして「セカンドライフ前半を厚めに設定する」ところからスタートしてみてはいかがでしょうか。

 いずれにせよ、長いセカンドライフを考えたとき“計画性が重要になる”というのは明らかです。何年か経過したあとに修正を施すとしても、無計画な70歳の軌道修正と、それなりの計画をもって過ごした70歳の軌道修正では後者のほうが修正は軽微ですむはずです。

 今回のコラムはいつもより長めになりましたが、老後のお金の管理方法のヒントとして役立つと幸いです。

 興味があれば、経済ジャーナリストの大江英樹氏、フィデリティ退職投資教育研究所の所長野尻哲史氏など、老後のマネープランについて書籍がいくつか発売されていますので、目を通してみるといいでしょう。

 

◆老後のマネープランについておすすめの書籍

・経済ジャーナリスト 大江英樹氏著

定年3.0 50代から考えたい「その後の50年」の
スマートな生き方・稼ぎ方


 

 

・フィデリティ退職投資教育研究所の所長 野尻哲史氏著

退職金は何もしないと消えていく
60歳から「経済的自由」を手にする投資勉強方法

(講談社+α新書)