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 2018年以降、万能細胞の一種である『iPS細胞』を使った再生医療の取り組みが進み始め、医薬品企業や異業種からの民間参入が続いています。けがや病気で失った細胞を、『iPS細胞』から作って補うことにより、従来治療が困難であった病気の根本的な治療へつながるとして期待が高まっています。同細胞を使ったパーキンソン病、脊髄損傷や角膜移植などで臨床研究が進み始めており、今後の動向が注目されます。

 

【ポイント1】再生医療の市場規模は2030年には5.2兆円になる見通し

2018年以降『iPS細胞』を使った臨床研究が開始

 再生医療とは失われた細胞・組織・器官を再生し、機能を回復させる医療の総称です。経済産業省によると、世界での機器や消耗品、創薬用途など再生医療の周辺産業の市場規模は、2020年に1.1兆、2030年には5.2兆円になる見通しです。

 再生医療への応用が期待されるのが『iPS細胞』です。『iPS細胞』は血液や皮膚の細胞から作ることができる万能細胞です。山中伸弥教授らが、2006年に初めてマウスで作製に成功しました。現在『iPS細胞』は、パーキンソン病や脊髄損傷、心不全、角膜の損傷、再生不良性貧血、慢性肝不全など様々な病気で臨床研究が開始される段階にあります。

 

【ポイント2】パーキンソン病で、第1例目となる臨床試験

脊髄損傷や角膜移植を承認

 2018年10月に京都大学の高橋教授らによりパーキンソン病患者の脳に、『iPS細胞』から育てた神経細胞を移植する手術が世界で初めて実施されました。医師主導の臨床試験(治験)の第1例目となりました。

 厚生労働省は、2019年2月18日に『iPS細胞』を使って脊髄損傷を治療する慶応義塾大学の臨床研究計画を了承しました。『iPS細胞』から作った細胞を患者に移植し、機能改善につなげる臨床研究となります。2019年秋にも移植が始まる見通しです。

 2019年3月5日に同省は、『iPS細胞』から角膜の細胞を作って目の病気の患者に移植する大阪大学の臨床研究計画を条件つきで了承しました。2019年前半にも1例目の移植が実施される予定です。

 

【今後の展開】長期的な視点で、産官学で結集した取り組みが必要

『iPS細胞』を使う再生医療では安全性など対処すべき課題が多くあり、長期的な視点が求められます。また多くの患者に普及させるには、コストが大きな課題となり、量産化には化学や機器企業の高い技術力も不可欠となります。長期的な視点と様々な大学と企業との連携や産官学での結集した取り組みが求められます。