EU加盟国にも、EUへの不満が蓄積
英国の離脱条件が決まらないことに対し、EU側にも焦りがあります。「合意なき離脱」になれば、EUにもダメージが及ぶからです。
英離脱のダメージを小さくするには、離脱後も、英国が関税同盟(関税なしで貿易できる)に留まることを認めれば良いと言えます。ところが、簡単にそれを認められないところに、EU側の苦悩があります。
というのは、EU加盟国内でも、反EU勢力がどんどん拡大しているからです。英国に、いかにも「いいとこ取り」のような離脱を許せば、英国を真似て、関税同盟に留まりながらEUから離脱を目指す動きが広がりかねない不安があります。
EU加盟国の国民に広がるEUへの不満も、英国民の不満と構造は同じです。移民難民が流入することへの不満と、EUドイツに支配されることへの不満です。
共通通貨「ユーロ」の幻想
出口の見えないEUの構造問題の元凶は何か考えると、共通通貨ユーロに行き着きます。今になってみると、経済構造がまったく異なる欧州の国々が統一通貨を持つという構想は、幻想だったと言わざるを得ません。
ギリシャの債務問題を悪化させたのは、共通通貨ユーロの存在です。ギリシャは2001年に自国通貨ドラクマを廃止して共通通貨ユーロを採用しました。
もしギリシャがEUに加盟せず、通貨ユーロを使用していなければ、ギリシャの通貨ドラクマは、2001年以降、経常赤字の拡大とともに、対ユーロ・対ドルでじりじりと下落し続けたはずです。通貨が下落すれば、輸入インフレが引き起こされ消費が抑えられます。一方、観光業・海運業など外貨をかせぐ自国産業は活性化します。経常赤字拡大→通貨下落→輸入減少・輸出活性化→経常赤字減少という「教科書的な為替調整機能」が働いていたはずでした。
ところが、ギリシャはドイツの信用で支えられた通貨ユーロを使用していたため、通貨は高止まりし、為替による調整機能が働きませんでした。ユーロを使い続けていたギリシャは、経常赤字を拡大させても通貨安による輸入インフレに見舞われることがありませんでした。それで、さらに経常赤字が拡大するという構造に陥りました。
スペインもポルトガルもイタリアも、大なり小なり同じ構造問題をかかえています。自国通貨が下がることによる「消費抑制効果」が働かないため、過剰消費は抑えられません。そのまま放置すると、最後は、ドイツなど経済強国からの補助金で埋め合わせなければならなくなります。そうなっては困るから、ドイツはEUを通じて緊縮財政を強制します。
スペイン人、ポルトガル人、イタリア人は、自国通貨の下落によるインフレによって消費が抑圧されるならば、それは自国経済が弱い為とあきらめるでしょう。ところが、EU・ドイツの命令で、緊縮財政をやらされ、それで消費が抑圧され、景気が低迷していると聞かされると、EUへの怒りが蓄積していきます。
今のところ、南欧諸国の反EU勢力は、「反緊縮」「反移民」を唱えているだけで、EUからの離脱を明確には宣言していません。自国通貨を捨て、共通通貨ユーロを採用してしまった以上、それを自国通貨に戻すにはあまりに巨額のコストがかかるからです。EUに留まった上で、EUの規制に反旗を翻すスタンスをとっています。
英国がEUからの離脱を決断できたのは、通貨まで共通化せず、英ポンドを残していたからです。通貨を人質にとられたEU諸国は、EUからの離脱を簡単に口にできません。ただし、イタリアで反移民・反EUを唱える政党(五つ星運動)が政権をとりました。フランスでは格差拡大への不満から、左派勢力が強まりつつあります。このように各地で反EU勢力が拡大しています。
ドイツにも焦り
EUを主導しているのは、EU最大の経済強国ドイツです。南欧のEU加盟国で勢力を拡大しつつある急進左派勢力や極右勢力など、反EU勢力は、今のところ「EU官僚」「ブリュッセル(EU本部があるベルギー首都)」を、緊縮財政を押し付けて景気を低迷させる元凶として批判しているが、一歩間違えば、批判の矛先は、ドイツに向かいかねません。
そのドイツに焦りがあります。経済的に弱体のギリシャなど南欧諸国を、ドイツがEUを通じて財政的に支えていることに、ドイツ国民の不満が膨らんでいるからです。「われわれの税金を使ってギリシャを支えるのはやめろ」という声が広がっています。財政規律を重んじるドイツ、オランダなどは、第2、第3のギリシャが現れることを防止するために、財政状態のよくない南欧諸国に、何としても緊縮財政を守らせなければならないと焦っています。
EUを主導するドイツでも、反移民・反EUを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」が勢力を拡大する事態が起こっています。
日本株への影響
英国のEU離脱問題、欧州全域で反EU勢力が拡大している問題は、簡単に解決せず、長期的にくすぶり続けるリスク材料となるでしょう。ただし、すぐに世界経済や世界の株式に大きな影響を及ぼすものではないと考えています。当面、日本株に与える影響は、あまり大きくないと考えています。
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