政策金利の利上げペースを再確認

 前々回のこのコラムでFRBの中立水準と利上げ回数ついて述べましたが、パウエル氏の発言も同じような意味合いとなります。繰り返しですが、重要なポイントなので再度説明します。

 まず、現在のFRBの政策金利と今後の金利見通しは以下の通りとなります。

(1)2015年末から2018年9月までに計8回、合計で2%利上げ

(2)現在の政策金利は2.0~2.25% (FF[フェデラル・ファンド]金利の誘導目標)

(3)9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)参加者が示した今後の利上げ見通しは、
「2018年は12月に1回利上げ、2019年に3回利上げ、2020年に1回利上げ、2021年はゼロ回」と合計5回の利上げ

(4)長期見通しである中立金利は3.0%程度

 上記の利上げ見通しでは、これまでの各回0.25%の利上げペースだと、政策金利は5回の利上げで3.25~3.50%になります。中立金利は利上げの過程で3.0%から引き上げていくことが予想されていました。しかし、パウエル議長もクラリダ副議長も、現在の政策金利(2.0~2.25%)が3%の中立水準を「わずかに下回っている」、あるいは「近づいている」と述べたことから、マーケットは、FRBは現在の中立水準を引き上げず、従って利上げ打ち止め時期が近いと理解しました。

 つまり、12月のFOMCで0.25%の利上げをすれば、政策金利は2.25~2.50%となり、中立金利3%までなら来年の利上げは2回で十分ということになります。

 

パウエル議長変心が米株800ドル下落を招いた!

 パウエル議長が2カ月も経たないうちに変心した背景は、10月の株価急落や、米中貿易摩擦の悪影響が出始めていることから、この2カ月で米経済の下振れリスクが高まっていると認識したためだろうと言われています。

 クラリダ副議長と足並みを揃えたパウエル議長の発言を受けて、マーケットの利上げペースの見方はかなり後退しました。12月の利上げの後、来年は1回との見方も出始めています。これまでの利上げ3回との見方はかなり後退したようです。

 12月18~19日のFOMCでは来年の金利見通しが焦点になります。来年2019年の利上げ回数が前回見通しの3回より少なくなればドル売りとなります。そして株価はどうでしょうか。

 11月28日のパウエル議長の発言によって株は上昇しましたが、その後、利上げペース鈍化観測は、債券利回りを下落させ、景気後退を意識させたことから、4日の米株大幅下落の一因となっています。利上げペースの鈍化は必ずしも株式市場にとってはプラス材料ではなさそうです。

「利上げペース」というこの要因は、来年に入っても大きなテーマになることは間違いありません。2019年のどの時期に利上げが打ち止めになるのかという思惑が交錯し、為替市場や株式市場の波乱材料になります。

 ドル/円にとっては、FRBの利上げ打ち止め観測と原油下落による日本の物価下落が円高方向への大きな圧力になるかもしれません。

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