世界中が注目!米中貿易摩擦問題は棚上げ
世界中が注目した米中首脳会談では、結局、米中貿易摩擦問題は90日間先送り、来年に持ち越しとなりましたが、株価は「一時休戦」という結果を歓迎して上昇しました。米中双方に悪影響となる追加関税率引き上げという悪いシナリオにはならなかったものの、既に実施されている関税引き上げの影響はこれからもジワジワと景気に影響してくることが予想されているため、楽観的な状況に変わったわけではありません。
米中首脳会談後の12月3日、NEC(米国家経済会議)のクドロー委員長は、中国との貿易不均衡の是正に向けた新協議の交渉期限を2019年2月末に設定(90日間)し、交渉の責任者としてUSTR(通商代表部)のライトハイザー代表が任命されたことを明らかにしました。
対中強硬派で知られるライトハイザーUSTR代表は、トランプ米政権では対中国の制裁関税の発動や、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉などを担ってきた実績があります。米中新協議にも厳しい姿勢で臨むことが予想されます。
米中新協議で話し合われるのは、中国による知的財産権の侵害、外国企業に対する技術移転の強要、公正な市場をゆがめる国営企業への過剰な補助金など難問が多く、しかも90日間の間には、クリスマス休暇、新年休暇、中国の旧正月休暇と続き、実質協議日数は数週間短くなるため、何らかの前進した合意に達する可能性は低いかもしれません。
これまでの協議を率いてきた対中穏健派のムニューシン財務長官は、中国が1兆2,000億ドル(約136兆円)の輸入拡大を提案したと明らかにしました。詳細はまだ分かっていませんが、合意期待が大き過ぎると、90日後に協議の進展がなかった場合にはその落差がマーケットに反映されるため注意して臨む必要があります。
そして12月4日、米株は800ドル近く下げ、首脳会談後の上げ幅を一気に消しました。トランプ大統領の関税に対するけん制ツイートをきっかけに協議難航が意識され始めたようです。
利上げペースを意識する為替市場
首脳会談の直後、株は上昇したものの為替市場は株式市場と違った動きをしました。ドル/円は、重大イベントが終わったことによる材料出尽くしと、先週までのFRB(米連邦準備制度理事会)高官のハト派発言を気にしているようです。
このFRB高官のハト派寄りの発言は、11月16日のクラリダ副議長から始まりました。クラリダ氏は、米金利はFRBが中立金利と見なす水準に近づいているとの見方を示し、市場が想定していたよりも早い時期 に利上げ打ち止めの可能性を示唆しました。
そしてマーケットはこの発言を受けて、11月28日のパウエル議長の講演を注目。それまでパウエル氏は、中立金利に対する考え方として、10月3日に「(中立金利について)まだ距離がある」と述べています。しかし、11月28日の講演では「(中立金利を)わずかに下回る」と2カ月も経たないうちに見方を変えたのです。この議長講演を受けて株式市場は「利上げ打ち止めは近い」と連想し、株は上昇し、ドルは売られました。
政策金利の利上げペースを再確認
前々回のこのコラムでFRBの中立水準と利上げ回数ついて述べましたが、パウエル氏の発言も同じような意味合いとなります。繰り返しですが、重要なポイントなので再度説明します。
まず、現在のFRBの政策金利と今後の金利見通しは以下の通りとなります。
(1)2015年末から2018年9月までに計8回、合計で2%利上げ
(2)現在の政策金利は2.0~2.25% (FF[フェデラル・ファンド]金利の誘導目標)
(3)9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)参加者が示した今後の利上げ見通しは、
「2018年は12月に1回利上げ、2019年に3回利上げ、2020年に1回利上げ、2021年はゼロ回」と合計5回の利上げ
(4)長期見通しである中立金利は3.0%程度
上記の利上げ見通しでは、これまでの各回0.25%の利上げペースだと、政策金利は5回の利上げで3.25~3.50%になります。中立金利は利上げの過程で3.0%から引き上げていくことが予想されていました。しかし、パウエル議長もクラリダ副議長も、現在の政策金利(2.0~2.25%)が3%の中立水準を「わずかに下回っている」、あるいは「近づいている」と述べたことから、マーケットは、FRBは現在の中立水準を引き上げず、従って利上げ打ち止め時期が近いと理解しました。
つまり、12月のFOMCで0.25%の利上げをすれば、政策金利は2.25~2.50%となり、中立金利3%までなら来年の利上げは2回で十分ということになります。
パウエル議長変心が米株800ドル下落を招いた!
パウエル議長が2カ月も経たないうちに変心した背景は、10月の株価急落や、米中貿易摩擦の悪影響が出始めていることから、この2カ月で米経済の下振れリスクが高まっていると認識したためだろうと言われています。
クラリダ副議長と足並みを揃えたパウエル議長の発言を受けて、マーケットの利上げペースの見方はかなり後退しました。12月の利上げの後、来年は1回との見方も出始めています。これまでの利上げ3回との見方はかなり後退したようです。
12月18~19日のFOMCでは来年の金利見通しが焦点になります。来年2019年の利上げ回数が前回見通しの3回より少なくなればドル売りとなります。そして株価はどうでしょうか。
11月28日のパウエル議長の発言によって株は上昇しましたが、その後、利上げペース鈍化観測は、債券利回りを下落させ、景気後退を意識させたことから、4日の米株大幅下落の一因となっています。利上げペースの鈍化は必ずしも株式市場にとってはプラス材料ではなさそうです。
「利上げペース」というこの要因は、来年に入っても大きなテーマになることは間違いありません。2019年のどの時期に利上げが打ち止めになるのかという思惑が交錯し、為替市場や株式市場の波乱材料になります。
ドル/円にとっては、FRBの利上げ打ち止め観測と原油下落による日本の物価下落が円高方向への大きな圧力になるかもしれません。
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