2017年7月初時点で、インドを代表する株式指数のSENSEX指数(ムンバイ証券取引所に上場する30銘柄で構成)が史上最高値圏で推移しています。「BRICs」の「I」として名を連ねるなど、新興国の代表格に位置づけられるインド。足元の株式市場を見ても、改めてインドに注目・投資する動きが目立っています。

新興国の中でも、どのような点にインドの投資妙味があるのでしょうか?

本特集ではまず、マクロ的なデータを踏まえながら改めてインドという国を紹介。そのうえで、注目される産業セクターをいくつか取り上げつつ、各セクターにおける関連銘柄を日本株・海外株(普通株/ADR/ETF)含め、紹介していきます。

国としてインドが注目される理由

最初にご覧いただきたいグラフが、主な国や地域におけるGDP成長率の推移です。「BRICs」やアセアンなど新興国の中でも、特にインドの経済成長が高水準かつ長期的に続くと予想されています。

(出所)IMF資料を基に楽天証券作成
※2016年までは実績、2017年以降はIMF予測
※「ASEAN5」は、インドネシア、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナムの5カ国の平均

高成長の大きな要因としては、まず人口規模の大きさが挙げられます。現在インドの人口は約13億人と、中国の約14億人に次ぐ世界第2位。すでに世界人口の18%前後を占める大国ですが、2025年前後には中国を抜いて世界最大の国となる見込みです。

特に、15~64歳の「生産年齢人口」の比率が約52%と、中国の約37%(共に2015年時点データ)と比較しても高い割合であることも明るい材料と言えます。中国の場合は「一人っ子政策」という国の方針が大きく影響していますが、労働の中核をなす年齢層の割合が高いことは、長期に亘るインドの高成長を支えるエンジンとなりそうです。

(出所)国連調査資料を基に楽天証券作成

また、インドを語るうえでよく聞かれるのが、「政治」に関する話題です。

2014年の発足以来、モディ首相が率いる政権は「製造業の振興」や「企業化支援(企業促進策)」といった、多くの改革を実行してきました。比較的記憶に新しいのは、世界中で大きな話題となった高額紙幣の廃止でしょうか。実に約86%の通貨の流通を停止させ、納税の厳格化、及び現金の預金化を進めました。

預金化にあたっては、銀行口座の開設と同時に生体認証データベースの取得を大々的に実施し、インド版マイナンバー制度である「Aadhaa(アドハー)」登録者数が格段に伸長しました。同制度の登録者はすでに10億人を突破しており、この膨大なデータベースを活用した各種フィンテック政策にも、期待が高まるところです。

こうした「実行力の高さ」はモディ政権の大きな武器となっており、2017年におこなわれた地方選挙でも与党である「インド人民党(BJP)」が勝利を収めました。

他の新興国と比較しても現政権が安定しており、かつ「親ビジネス」の道を標榜する「モディノミクス」というインド政治の看板には、投資家の買い安心感にも大きく寄与していそうです。

※「2014年初終値=100」とした、パフォーマンスの推移
(出所)各種資料を基に楽天証券作成

 

注目セクター① IT関連

「インドの産業といえばIT」というイメージを持つ方も多いかもしれません。実際、「ソフトウェア」や「ハードウェア」の提供、「BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)」、「その他ITの保守・管理サービス」、から構成される同国IT産業の市場規模推移を見ても、2010年以降増加の一途を辿っています。

特に高い割合を占めるのは「海外向け」ですが、欧米など国外の企業がインド企業のサービスを活用する要因はどこにあるのでしょうか。ここでは大きく三点挙げたいと思います。

第一に、人件費などのコストが欧米など先進国と比較して著しく低い点。第二に、時差の関係上、欧米企業が休んでいる時間にインド企業が開発作業を進められる、という効率性の高さも大きな要素です。また第三に、国としても「研究開発への投資」に注力しています。一定の条件を満たせば税額負担が軽減されることもあり、特に外資系IT企業が多く集まる都市のバンガロールは「インドのシリコンバレー」とも呼ばれるほど、IT産業のエコシステムが確立されています。

今後も年率10%前後の成長率を維持し、2025年には合計3,500億ドルと、2016年時点(推定)の2倍以上まで伸長する予測も見られます。インド国外に向けての商機拡大のみならず、国内でも都市部・郊外ともにITインフラの構築はまだ進行途中であり、息の長いテーマとなりそうです。

(出所)IBEF資料を基に楽天証券作成

【IT関連 主な企業】

・インド企業

市場

コード/
ティッカー

銘柄

NYSE

INFY

インフォシス・テクノロジーズ

ソフトウェア開発の世界的大手企業。金融や、製造・ハイテク、エネルギー・公益事業、通信・サービス業など、多岐に亘る産業向けにアプリケーションを開発・管理。

NYSE

WIT

ウィプロ

インフォシス・テクノロジーズと共にインドを代表するIT大手。ハードウェアとソフトウェアの設計を含む一連のITとIT対応サービスを提供。

NASDAQ

SIFY

シフィ・テクノロジーズ

電子商取引サービスなどを提供するインド企業。同社のプライベート・データーネットワークを利用することで、リモートで情報の交流・発送・共有が可能となる。

NYSE

WNS

WNSホールディングス

子会社を通じて、金融、会計、顧客管理、事務管理サービスのアウトソーシングを提供する。

・米国企業

市場

コード/
ティッカー

銘柄

NYSE

GE

ゼネラル・エレクトリック

ウィプロとの間で合弁会社を設立し現地医療機器メーカーを買収したほか、バンガロールにエネルギーや航空・交通など多様な分野の研究センターを構える。

NASDAQ

MSFT

マイクロソフト

バンガロールにVC(ベンチャーキャピタル)を構え、医療データ解析などをテーマとするアーリー・ステージのベンチャー企業への投資を積極化。

· 日本企業

市場

コード/
ティッカー

銘柄

東証1部

6701

日本電気

現地企業との共同出資により、共通物流情報基盤を設立。貨物コンテナのトラッキングデータを駆使し、輸送リードタイム短縮や物流コスト削減への貢献を図る。

東証1部

6501

日立製作所

子会社の日立システムズが現地ITサービス企業買収し、ITプラットフォームの提供や保守サービスなどを提供。鉄道運行の分野にも注力。

 

 

注目セクター② 医薬品関連

「ITと並び、インド産業の代表格と言えそうなのが医薬品セクターです。日本ではそこまで目にする機会は多くないかもしれませんが、後発医薬品(ジェネリック医薬品)メーカーとして世界的に認知されている企業がインドにば数多く存在します。医薬品の販売規制が比較的緩やかな発展途上国(アフリカ諸国など)のみならず、販売にあたって厳格な承認手続きが求められる米国など先進国市場でも高い実績を誇ります。

この要因として、①人件費コストが低い、②高度人材(化学専攻)が豊富、というのはITとも共通するところです。加えてインドでは、研究から製造までを一貫して請け負うCRAMS(研究製造業務受託サービス)を強化しています。たとえば米国では、化学合成や製剤化といった研究・製造の一部分に主眼を置く企業のケースが多く、「一貫請負」をするというのはインド以外の国にはない独自の強みとするところです。

インド国内の需要という面では、政府が今後保険制度を整備していく方針です。保険制度が充実していき、より多くの国民が医薬品を享受する機会が増加していけば、医薬品関連企業にとっては大きな追い風となっていくでしょう。

医薬品製造のほか、原末の委託加工、臨床検査などの開発費用を含めた2020年における市場規模は、2016年から約50%増と、高い割合で伸長していく見込みです。

(出所)IBEF資料を基に楽天証券作成

【医薬品セクター 関連企業】

・インド企業

市場

コード/
ティッカー

銘柄

NYSE

RDY

ドクター・レディース・ラボラトリーズ

インドの代表的製薬メーカーで、多くの特許を持ち製品を世界中に輸出する。

・日本企業

市場

ティッカー/
コード

銘柄

東証1部

4502

武田薬品工業

2016年、各社の医薬品がインド医薬品規制機関(DCGI)より、新薬品の承認を取得。

東証1部

4506

大日本住友製薬

東証1部

4508

田辺三菱製薬

東証1部

4523

エーザイ

東証1部

4901

富士フイルムHLDG

インドの医療機器市場で強いプレゼンスを確立しており、画像診断システムの事業領域では50%前後の市場シェア。

東証1部

7701

島津製作所

現地大手医療機器メーカーと提携し、新生児スクリーニング分野での臨床試験を行う。

 

 

注目セクター③ エネルギー関連

人口規模が拡大するということは、エネルギー需要の増加にも直接的に影響します。 IEA(国際エネルギー機関)によると、2040年まで年間約4.5%の需要伸長が続き、同年には世界全体のエネルギー消費の4分の1を占めることになると予測されています。 

インドの現状としては、日常生活において満足に電気を利用できない人の数が3億人以上と言われています。 実に人口の過半数が炊事の際にバイオマス燃料(薪や糞など)を使用しているなど、電力インフラが整っていない状況です。

他方で、インド都市部ではPM2.5による大気汚染がすでに深刻化しています。「2030年までに再生可能エネルギーのシェアを40%まで引き上げる」という方針を政府が打ち出すなど、エネルギー供給の拡大と並行して環境対策を進めていくことも、同国の大きな挑戦となります。特に太陽光や風力発電を手掛ける企業にとっては、事業拡大の余地が非常に大きいと言えるでしょう。

(出所)GREENPEACE「Power Scenario Briefing」資料を基に楽天証券作成

【エネルギー関連 主な企業】

・インド企業

市場

コード/
ティッカー

銘柄

NYSE

AZRE

アジューレ・パワー・グローバル

インドの太陽光発電企業。太陽光による電力を供給するほか、ソーラー・パネルなど各種設備の備え付け工事も取り扱う。スマートシティ関連の案件にも携わるなど、同国における太陽光発電業者として高いプレゼンスを誇る。

・日本企業

市場

コード/
ティッカー

銘柄

東証1部

6752

パナソニック

一般家庭向けの電力や工場等の生産拠点向けのバックアップ用電源として活用される大型蓄電システム建設を手掛ける。

東証1部

8058

三菱商事

蓄電システム事業に注力。700万戸に配電網を有する現地企業のTata Power Delhi Distribution Limited社と提携し、配電系統安定化の実証事業に乗り出す。

東証1部

8591

オリックス

2016年、現地企業と合弁会社を設立し、日本企業として初となるインドの風力発電市場への参入する旨を発表。

東証1部

9984

ソフトバンクグループ

子会社を通じ、インド・アンドラプラデーシュ州に建設された、350MW の太陽光発電所(世界7位を誇る発電規模)の運転を2017年より開始。

 

注目セクター④ 個人消費関連

最後に取り挙げたいテーマが、「個人消費関連」です。

「国民の所得向上に伴い、消費が拡大していく」というのは新興国全般に共通する潮流ではありますが、その中でも世界最大の人口大国が視野に入るインドは、最大のポテンシャルを秘める市場かもしれません。

現在のインド市場の特徴として、「個人商店の割合が非常に高い」ことが挙げられます。反対に、チェーン店などのいわゆる「組織小売業」の割合が低く、このことが「適切な税収管理」や「健全な価格競争」を妨げる一因となっています。

こうした現状の打破策として、インドでは「小売業の組織化」を標榜しており、たとえば2016年、「商品がインド国内で生産・加工されたものであれば、外国企業が食料品を消費者に直接販売することが可能」という規制緩和を発表しています。外資企業の参入ハードルが下がるのに伴い、現地市場攻略に向けた競争がいっそう熱を帯びていきそうです。

また、Eコマース(電子商取引)も重要な競争軸となるでしょう。市場規模は2016年の300億ドルから2020年には1000億ドルと急ピッチで拡大する見込みです。主な牽引役となるのは、パソコンやインターネットを介した電子取引に比較的抵抗感を持たない10代~20代を中心とした若者層。繰り返しになりますが、政府側としては税収漏れを防ぐ意味でも電子取引に前向きな姿勢を見せています。今後はいかにして、若者層以外の間で電子取引の慣習を普及させていけるかが、鍵を握りそうです。

(出所)IBEF資料を基に楽天証券作成

【個人消費関連 主な企業】

・インド企業

市場

コード/
ティッカー

銘柄

NYSE

EROS

エロス・インターナショナル

インドの大手映画製作・配給会社。英国、米国、オーストラリア、アラブ首長国連邦向けなど国外にもフィルムを配給する。

NYSE

HDB

HDFCバンク

卸売事業を行う商業・投資銀行業務及び小売事業を行う取引・支店銀行業務をカバーする銀行サービスを提供する、金融持株会社。

NYSE

IBN

ICICIバンク

インド全土に約18,000の支店と現金自動預け払い機(ATM)のネットワークを有する大手銀行。

NYSE

TTM

タタ・モーターズ

同国を代表する財閥グループにおける自動車メーカー。情報技術(IT)サービスや工作機械などの提供にも取り組む。

NASDAQ

MMYT

メイクマイトリップ

インドの大手オンライン旅行代理店。ウェブサイト「makemytrip.com」を通じ、インド国内外の旅行の検索や予約サービスを提供。

・米国企業

市場

コード/
ティッカー

銘柄

NASDAQ

AMZN

アマゾン・ドット・コム

インドでの取り扱い品数を16年9月時点で8000万点と、2年前に比べ3倍強に拡大。

NYSE

BABA

アリババ・グループ・ホールディング

インドにおけるモバイル決済サービス大手「paytm」に出資。16年にはインドでのオペレーションに30億ドルの追加投資を決定。

・日本企業

市場

コード/
ティッカー

銘柄

東証1部

2267

ヤクルト本社

仏ダノンとの共同子会社が、インドの14都市で営業支店を19拠点展開(2017年4月時点)。今後数年で新たに2-3箇所設立する計画。

東証1部

3863

日本製紙

2017年、KFC等の大手ファストフードを顧客として抱える、インド最大の紙カップメーカー「Plus Paper Foodpac」社の買収を発表。

東証1部

4324

電通

2015年、現地の大手マーケティング会社で、イベント運営などに強みをもつFountainhead Entertaimant社を買収。

東証1部

6367

ダイキン工業

現地エアコン市場で売上高約468億円と、インドでシェア首位。「エアコン普及率が未だ3%であるインド市場も、5%を超えたら一気に市場が拡大するだろう。」と言及。

東証1部

6752

パナソニック

白物家電など、1990年よりインド市場にて販売注力。2016年には、新たな研究拠点「インドR&Dセンター」の新設を発表。

東証1部

6758

ソニー

液晶テレビなど電化製品ほか、映画、映像のデジタル制作も展開。インドのエンターテイメント産業におけるプレゼンス向上も図る。

東証1部

7267

本田技研工業

インドの二輪車市場でシェア25%前後の業界2位。2016年度の現地売上高は約3,400億円と、前年の約3,060億円から順調に増加した。

東証1部

7269

スズキ

日系自動車メーカーの中でも早期よりインドに進出、現地子会社のマルチ・スズキがトップシェアを誇る。

東証1部

7453

良品計画

インドの大手財閥Reliance Industries傘下のReliance Brandsと2016年に合弁会社を設立。2017年2月時点で「無印良品」2店舗を運営。

東証1部

7731

ニコン

インドのデジタル一眼レフカメラ市場でシェア55%(2016年度)を獲得。

東証1部

7751

キヤノン

1997年にインド事業進出。要都市以外の地域を中心に直販店出店を加速させ、2020年の売上高約600億円を標榜する。

東証1部

8113

ユニ・チャーム

インド消費者の所得向上の恩恵を受け、紙おむつなどの販売が上昇基調。

東証1部

9984

ソフトバンクグループ

インド最大の電子決済サービスを手がけるペイティーエム(Paytm)に対し、14億ドル(約1550億円)の投資を実施。

東証2部

7906

ヨネックス

2016年にバトミントン用品を製造・販売する子会社を設立。近年インドでの人気上昇を追い風に、商機拡大を図る。

 

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市場

ティッカー/コード

名称

東証

1549

上場Nifty50先物

東証

1678

インドNIFTY50

NYSE

EPI

ウィズダムツリー インド株収益ファンド

NYSE

SCIF

ヴァンエック・ベクトル・インド小型株ETF

NYSE

INDL

Direxion デイリー インド株 ブル3倍 ETF

香港

02836

iシェアーズS&P BSEセンセックス・インディア・インデックスETF

香港

03015

db xトラッカーズ ニフティ50 UCITS ETF

シンガポール

DMNI

db x トラッカーズ MSCIインド・インデックスUCITS ETF

シンガポール

DNIX

db x-トラッカーズ ニフティ50 UCITS ETF <インド>

シンガポール

INDI

iシェアーズ MSCI インディア

シンガポール

LINR

リクソーETF MSCI インディア