先週からの為替相場の振り返り、ドル高に勢いなし
注目された米中間選挙は、大方の予想通り上院が共和党、下院が民主党の勝利。2年前のBrexit(ブレグジット:英国のEU[欧州連合]離脱)可否の国民投票や、米国大統領選挙時のようなサプライズとはなりませんでした。不透明要因がなくなったため、米中間選挙後は株高になると言われていた通りに株高、ドル高となりました。
ただ米中間選挙の結果、「ねじれ議会」となりました。「ねじれ議会」は政策停滞の要因となりますが、何もなされないという意味での政局安定が、実はウォール街にとってはプラスとの見方があります。
米金融機関のレポートによると、1952年以降、「共和党の大統領とねじれ議会」の組み合わせで、中間選挙のあった翌年の株式の運用収益は+19.9%との分析があります。米中間選挙後は株高、ドル高とパターン通り進行すればいいのですが、リスク要因(ドル高と中国リスク)がどの程度、阻害要因になるのか、また日本にとっては、来年2019年1月から始まる日米通商協議がどの程度、マーケットに影響してくるのか注目していく必要があるのです。
そのためペンス米副大統領が来日し、安倍晋三首相と会談するというだけで、11月13日の東京マーケットには緊張感が漂っていました。
名目実効為替レートは33年ぶりのドル高
中間選挙直後に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果もドル高を後押ししました。11月8日の声明文では「緩やかな利上げは、持続的な景気の拡大と整合する」と前回の表現を踏襲し、次回(12月18~19日FOMC開催)12月利上げを示唆する内容だったことから、ドル/円は114円台に上昇。しかし、直近高値の114.55円は抜け切れず、高値は114. 21円まででした。先週1週間のドル/円のレンジも1円15銭と普段の動きと変わらない週でした。
米中間選挙、FOMCという大きなイベントが終わってもこの程度の動きならば、年内の大きな動きは期待できないかもしれません。ドル高にいま一つ、勢いを感じられないからです。
ただドル自体、現在のところ底堅い動きをしています。
それもそのはず、11月7日にBIS(国際決済銀行)が61カ国の貿易量を勘案して算出した10月末のドルの名目実効為替レートは、1985年以来33年ぶりの高値をつけています。実効為替レートはさまざまな通貨を横並びに評価できる指標として利用されています。
名目実効為替レートに物価変動を加味した、実質実効為替レートでもドルは2002年以来、16年ぶりの高値となっています。世界経済全体が減速し始めている中、経済成長率(実質GDP[国内総生産])3%台と米国経済の強さが際立ち、米国にマネーが流れてきていることを物語っています。
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さて、ドル自体は33年ぶりの高水準ですが、ドル/円の為替レートで見ると、33年前の1985年のプラザ合意前の水準は約260円、2002年の水準は約135円、そして今年2018年10月末のレートは約113円です。
このようにドル/円で比べると、かなりの開きがあることが分かります。極端な言い方をすれば、33年ぶりのドル高にもかかわらず、ドル/円の為替レートが113円ということは、ここが精一杯の水準なのかもしれません。
ドル高水準への警戒感強く
米中間選挙後、ドル/円が115円になかなか届かないのは、円安が進行しないというよりも、ドル高に勢いがなく、ドル自体の水準への警戒感があるのかもしれません。
33年ぶりのドル高は、ここからさらにドル高になればなるほど警戒感や悪影響が強まる可能性があります。ドル高は米企業の輸出競争力を低下させ、景況感が悪化して景気全体に悪影響を徐々に及ぼすことが予想されるからです。
またドル高は物価下落に影響し、物価が下落してくるとFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げペースが鈍化することが予想されます。この利上げペースも、来年2019年後半には頭打ちとの見方が高まっていることから、ドル高が進めばこれが前倒しされるかもしれません。
さらにトランプ政権からドル高けん制が出てくることも予想されます。
ドル高によって米国への輸入が増え、輸出が減る環境は、貿易赤字が改善しにくくなり、政権としては最も嫌がる経済環境です。
そして、これらのシナリオの中には中国リスクは含まれていません。中国リスクはまったく別のシナリオではありません。ドル高という環境と並行して進むシナリオです。
中国経済の減速や米中貿易戦争による経済への悪影響とドル高の影響によって、今後米国企業や経済に打撃を与えるかもしれないというシナリオです。米中首脳会談への期待は大きいものの、6月の米朝首脳会談のように会談することだけで目的が達成したということになるかもしれません。