先週からの為替相場の振り返り
先週のドル/円は、米国株の急落を受けてドル/円のテクニカルポイント112円半ばをあっさり抜け切り、112円割れを示現しました。
そしてNYダウは米長期金利上昇への警戒が高まり、米中貿易戦争による世界経済減速懸念が強まったことから、10日には831ドル安と今年2月以来の大幅安となり、史上3番目の下げ幅となりました。金曜日には287ドル高と4営業日ぶりに反発しましたが、週間では1,107ドル下落し、史上5番目の下げ幅を記録しました。米株は12日金曜日に反発したものの戻りも鈍く、111.88円まで下落したドル/円の戻りも鈍い状況となっています。
ドル/円の上値を抑えている要因は株安だけではなく欧州の要因もあります。
先週お話ししたイタリアの財政問題への懸念、英国とEU(欧州連合)のBrexit(ブレグジット:英国のEU離脱)交渉の不透明感に加えて、欧州委員からのユーロ高けん制発言、週末に行われたドイツのバイエルン州議会選挙での与党メルケル政権の敗北によって、週明けにはユーロ/円、ポンド/円が売られ、ドル/円の円高圧力となりました。
ドイツは28日にも西部ヘッセン州議会選挙があります。ここでもメルケル首相が大敗すれば、首相の進退問題に発展する可能性があり、ユーロ売り圧力が強まるかもしれません。
円安?円高?次の動きは?
さらに、週末に今後円高要因となるかもしれない発言が出てきました。10月13日、G20(主要20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議に参加していたムニューシン米財務長官が記者団の取材に応じ、日本とのTAG(物品貿易協定)に関連し、通貨安誘導を制限する「為替条項」の導入を日本に対して求める考えを表明しました。
為替条項とは、自国の輸出に有利になるように為替相場を安く誘導することを防ぐ取り決めです。NAFTA(北米自由貿易協定)に代わって合意された米国、カナダ、メキシコの新協定(USMCA)では為替条項が導入されました。協定には「為替介入を含む競争的な通貨切り下げを自制する」と明記されています。ムニューシン氏は、この為替条項が日本との貿易協定のモデルになると指摘しています。
日米通商協議で為替条項が織り込まれると、為替介入に制約がかかる可能性があり、また、通貨安につながる日銀の金融緩和策を問題視される懸念があります。日本の通貨政策や金融政策に干渉する材料となる可能性があり、為替や株式市場の混乱要因につながる恐れがあります。
日本としては、為替条項は受け入れ難く、為替条項に関する協議は日米財務相で協議されるとし、通商協議とは切り離して対応しようとしています。
ただ、米国、カナダ、メキシコの新協定ではこの為替条項は強制力のある内容とはなっていないようです。このため為替条項の合意後もメキシコペソやカナダドルの通貨高は限定的な動きとなっています。従って、日本も為替条項を受け入れたとしても強制力がなければ報復関税を課される可能性は低くなり、円高への圧力も限定的となる可能性があります。
しかし、トランプ大統領は就任直後に「他国は資金供給(money supply)と通貨切り下げで有利な立場にある。中国や日本は何年も市場で通貨安誘導を繰り広げ、米国がバカをみている」と、中国と同列で日本の為替政策を強く批判しています。
また、米財務省が半期に一度報告する「為替報告書」では、実質実効為替レートが25%円安との評価をしています。この10月中旬公表予定の為替報告書でも25%円安との評価になっていれば、トランプ大統領がより強硬な姿勢で臨んでくる可能性もあります。
「25%円安」という評価は、25%はともかく、現在の水準と比べて「円安」という評価については、BIS(国際決済銀行)もIMF(国際通貨基金)も同じような評価をしています。
BISが算出する円の実質実効レートは過去30年で最も安い水準にあり、1985年のプラザ合意前(名目レートで1ドル=260円)をも下回るという評価をしています。IMFも日米の物価を基にした購買力平価では1ドル=99円程度が妥当だと試算しています(現在の112円では13%の円安水準)。
米国は日米通商交渉を前に「自動車に25%の関税を課す」と脅しをかけた経緯があり、日米通商協議の交渉過程で、自動車関税25%と為替報告書が指摘する円安是正25%を交渉材料に出してくるシナリオも予想されます。マーケットも円安是正が駆け引きになるのではないかとの思惑からドル/円に対しては売り圧力がかかりやすい状況になるかもしれません。米側からトランプ大統領や政府高官のダメ押し発言が加われば、一層の円高になる可能性があり警戒する必要がありそうです。
マーケットの乱高下は続く見込みか
今回の円高の背景は、(1)株下落、(2)欧州要因(英国、イタリア、ドイツ)、(3)「為替条項」と「為替報告書」が要因として挙げられますが、これらの要因はまだ消えているわけではありません。
米株式市場は今週に入って反発しています。先週の株式市場の下落は、米中間選挙前のアク抜きで、米中間選挙に向けて反発してくるとの見方もありますが、株式市場はまだ不安定な動きをする可能性もあります。
また最近、トランプ大統領がしつこく発言しているFRB(米連邦準備制度理事会)批判のトーンが強まっているのが気になります。
10月16日の米テレビ番組のインタビューで「FRBは私の最大の脅威だ」と発言し、FRBの利上げペースがドル高や株式市場の乱高下の要因になっていると強く批判しています。FRBがトランプ大統領の意向をくんで政策を決定するとは思えませんが、株式市場の動揺が収まらない場合は「FRBの利上げペースが落ちる」、例えば「12月の利上げはない」と、マーケットが勝手解釈をする可能性があるかもしれません。米中間選挙まであと2週間となりました。まだまだ相場の乱高下は続くと見てマーケットに臨んだ方がよさそうです。