PPPを知れば為替のウラがわかる!

 前回の本連載で、PPP(Purchasing Power Parity:購買力平価)のお話をしました。少しややこしい話でしたが、きちんと理解していただけましたでしょうか?

「なるほど為替超入門」と冠している手前、たとえを示しながら、もう一度わかりやすくお話しします。

 私自身、長期的な相場シナリオを考える際に、PPPがかなり目安になるという経験があるため、活用していただきたいと考えています。物価が上がれば金利が上がり、ドルが上がるという観点からだけではなく、PPPを理解することで、物価が上がれば、長期的に通貨の価値にも影響するという視点を新たに持つことができ、違った景色が見えてくるでしょう。

「物価」とはモノの値段ですが、海外旅行に行ったとき、日本との物価との違いを感じることがあるでしょう。そして、日本と海外の物価を比べたとき、その通貨に対して「この物価格差なら円高に進むのではないか」、あるいは「円安に進むのではないか」という考え方が、PPPを理解することでできるようになります。

 一度、PPPの仕組みがわかれば、今後もかなり参考になる指標だと思います。くどい話が続きますが、頭の体操として少しお付き合いください。

 

PPPの考え方

 前回、PPPとは、「為替レートは2国間の物価上昇率の比で決定される」と説明しました。たとえば、米国と日本の2国間で考えてみましょう。

まず、ドルと円の通貨の価値は、

1ドル=100円が200円になれば、ドル高・円安(ドルの価値が上がり、円の価値が下がる)

1ドル=100円が50円になれば、ドル安・円高(ドルの価値が下がり、円の価値が上がる)

という関係にあります。

 完全な自由の貿易世界では、国が異なっても同じ商品なら価格は同一であるという前提があります。

 これは商品の価値、例えばハンバーガーの価格が、日本でも米国でもまったく同一であるときの日米間の為替相場を、PPPと言います。

 具体例を挙げましょう。

 例えば、ハンバーガーの価格が日本では200円、米国では2ドルだとします。両国において、同じ価格でハンバーガーを買うためには、ドル/円の交換レートが1ドル=100円になれば、ハンバーガーの価格は同じと言えます。つまり、円でもドルでも同じ購買力を持っている状態ということです。

 米国人が日本に来て、200円のハンバーガーを買うとき、1ドル=100円であれば、米国と同じ価格の2ドルを円に交換し、2ドル×100円=200円となり、200円のハンバーガーを日本で買うことができます。

 逆に、日本人が米国に旅行をして2ドルのハンバーガーを買うためには、日本と同じ価格の200円を1ドル=100円でドルに交換すれば(200円÷100円/ドル=2ドル)、2ドルとなり、2ドルのハンバーガーを買うことができます。米国人は日本でも2ドルのハンバーガーを買うことができ、日本人は米国でも200円でハンバーガーを買うことができます。

 2ドルと200円の購買力が等しくなるのは、ドルと円の交換レートが1ドル=100円となっていることから、成立するということになります。この為替レートが「PPP」ということになります。

 

購買力が等しい状態

 

為替レートが釣り合う状態とは

 さて、ここから話を進めます。このPPPは2国間の物価水準の格差によって変わってくるという考え方です。

 もし、日本の物価が上昇し、ハンバーガーが2倍の値段の400円になれば(米国では2ドルのまま)、円とドルのPPPはどうなるでしょうか。PPPとは、「為替レートは2つの国の通貨の購買力(モノを買える価値)が同じになるように決まる」という考え方ですから、米国人が日本に来て400円のハンバーガーを買うために釣り合う為替レートは、1ドル=200円(400円÷2ドル=200円/ドル)ということになります。1ドル=100円のままなら、米国人は400円のハンバーガーを買うために4ドル払うことになり、日本では買わないでしょう。

 一方、1ドル=200円なら、日本でも同価値の2ドルで買えるので、米国と同じ価格と判断します。これが釣り合う為替レートということになります。
日本人が米国に行ったときに、1ドル=200円なら、2ドルのハンバーガーを買うために、これまでよりも倍の円が必要となります。

 1ドル=100円が1ドル=200円になったわけですから、円安になったということになります。

 つまり、日本で物価が2倍になれば、日本の通貨である円の価値は下落し、価値が半分の円安ということになります。

 逆に、米国で物価が上昇し、ハンバーガーが2倍の値段の4ドルになれば(日本では200円のまま)、円とドルのPPPはどうなるでしょうか。日本人が米国に行ってハンバーガーを買うために釣り合う為替レートは1ドル=50円(200円÷4ドル=50円/ドル)ということになります。1ドル=100円のままなら、日本人は4ドルのハンバーガーを買うために400円払い、米国では買わないでしょう。1ドル=50円なら米国でも200円で買えるので、日本と同じ価値と判断します。これが釣り合う為替レートということになります。

 一方、日本に来た米国人は1ドル=50円のとき、200円のハンバーガーを買うためにこれまでよりも倍の4ドルが必要になります。1ドル=100円が1ドル=50円になり、ドル安(円高)になったということになります。

 つまり、米国で物価が2倍になれば、米国の通貨であるドルの価値は下落し、半分の価値のドル安になったということになります。

日本の物価が2倍に上昇(円の価値は下落)

 

米国で物価が2倍に上昇(ドルの価値は下落)

 

 まとめますと、

日本で物価が上昇すると、長期的には円の価値は下落し円安になり、         

米国で物価が上昇すると、長期的にはドルの価値は下落しドル安になる

という考え方です。

 

 物価が下落すると円やドルの価値は上昇します。つまり、

日本で物価が下落すると、長期的には円の価値は上昇し円高になり、         

米国で物価が下落すると、長期的にはドルの価値は上昇しドル高になる

という考え方です。

 

 物価が上がれば金利が上がり、短期的にはドルが上がるかもしれませんが、長期的にはPPPに回帰するという考え方を持っておくことには損はありません。

 プロの間では、「長期では為替はPPPを軸に動く」という見方をする人が多くいます。「為替はモノとモノの交換価値なので、長期では当然インフレ率の差で決まる」という考え方が背景にあるようです。

 1990年代後半から物価が下がり、2000年代に入ってデフレに入ると、日本では円高が進行しました。そして、アベノミクスによって力任せで円安に持っていき、デフレを脱出し始めてくると、このバイアスも円安に働きました。

 ところが、日本の物価上昇が頭打ちになってくると円安も止まりました。最近では、米国の物価が上がり始めてきていることから、円安の方向にブレーキがかかってきているようには見えますが、日米とも物価の上昇幅が鈍くなってきているため、10~20年前と比べると、ドル/円は大きく変動しなくなってくる可能性もあります。

 今年の値幅が狭くなっているのは、このような要因が背景にあるのかもしれません。