長期金利上昇で米国株式の下落は続くのか

 米長期金利の上昇が内外市場の波乱要因とされています。図表2は、米長期金利(10年国債利回り)と米国株式(S&P500指数)の予想PER(12カ月先予想EPS[1株あたり利益]の市場予想平均をベースにした株価収益率)の推移を示したものです。

 長期金利は約7年ぶりとなる水準に上昇していますが、株式の予想PERは約16.1倍と本年1月時点の予想PER(約18.5倍)と比較して低くなっています。ここから、最近までの米国株式堅調が「根拠なき熱狂」ではなく、業績拡大見通しを背景とする「根拠ある株価上昇」であったことがわかります。

 実際、S&P500指数の予想EPSは9月末時点の168.45ポイントから10月に入っては172.58ポイントに増加。12カ月累計EPS(実績:138.29)に対して約24.8%の増益が見込まれています。参考までに、1991年以降の予想PERの算術平均は16.1倍と現水準と同様である一方、長期金利の平均は4.4%と現水準(約3.2%)はいまだ低水準に留まっています。

図表2:米長期金利上昇が株式の予想PERに圧力?

注:予想PER=S&P500指数÷予想EPS(12カ月先予想EPS(市場予想平均)) 出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(10月10日)  

 株価の「割高」や「割安」はモノサシ(バリュエーション指標)の種類や時間軸により評価が異なります。本稿は、簡便なバリュエーション手法として著名な「FEDモデル(通称)」で分析します。

 これは、アラン・グリーンスパン氏が議長をしていたFRB(米連邦準備制度理事会=FED)が1997年に米議会に提出した報告書に取り入れた「益回りスプレッド分析」として知られています。

 予想PERの逆数(予想EPS÷株価)である「益利回り」と米長期金利との差(=益利回りスプレッド)を試算し、その高低で「債券と比較した予想PERで株式が割高なのか割安なのか」を評価します。益利回りスプレッド(長期金利-予想益利回り)は、数値が高いほど株式が債券と比較して「割高」と判断され、数値が低いほど「割安」と判断されます(図表3)。

 現在の予想PER(約16.1)から算出した益利回りは約6.2%ですので、長期金利(約3.2%)との差は「-3.0%」となります(10月10日)。1991年以降の益利回りスプレッドの算術平均(-2.0%)と比較すると、現在の米国株式は「金利水準を加味したPER面で株式が過度に割高」とは言えません。

 たとえば、2000年初めのITバブル時にはS&P500指数の予想PERが25~26倍に拡大。長期金利も6.7%まで上昇しましたので、益利回りスプレッドは当時+2.8%まで上昇(2000年1月)。「株式は債券と比較してかつてないほど割高」となった結果、株式はその直後に弱気相場(ITバブル崩壊)を迎えました。今後の米国市場は、金利上昇のペースが緩やかに留まるか否かに加え、収益拡大期待をエンジンとする「業績相場」を維持できるか否かを見極める必要があります。

図表3:益利回りスプレッドでバリュエーションを分析する

注:益回りスプレッド=米長期金利(10年国債利回り)-益利回り(予想EPS÷S&P500指数) 出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(10月10)