突然ですがクイズです。10月10日は何の日でしょう?

 そのように質問されると、トウシルで記事を読まれている多くの方は「体育の日」が真っ先に思いつくのではないでしょうか? でも、体育の日がハッピーマンデーにより、2000年に10月第2月曜日に移動してからもう18年になります。10月10日が体育の日ではなくなってから随分経つのですが、一度、記憶が固定してしまうと、次に新しい情報が入って来ても、なかなか修正できないものです。そして、真っ先に思いついた内容で答えを出し、意思決定をする傾向があります。

経済学と心理学が融合した学問である「行動経済学」

 こうした思考のショートカットについて、行動経済学では「ヒューリスティック」と呼ばれています。何やら難しい言葉ですが、単純に言えば、経験や記憶による直感で判断するということです。直感で判断するというと頭を使っていないような良くないイメージがあるかもしれませんが、進化の過程で生存のためには重要だったとする説があります。原始社会を生き残ることを考えると、思いもせず茂みが揺れたら、サーベルタイガーのような大型肉食獣に襲われるのかもしれませんし、イノシシのような動物に突進されるかもしれません。何が出てくるのだろうなどと考えるよりも、闘争・逃走に備えて反射的に体を動かせるようにしなくてはなりません。

 現代では野生動物に襲われることはないのですが、遺伝子レベルで刷り込まれてしまったのか、じっくり考える時間があっても、つい、思考をショートカットしてしまいます。

印象的な数字には特別な意味を見出してしまいがち

 数字で言えば、ゾロ目は代表格です。サイコロを2回振って、1回目に6が出たとすると、2回目に6が出る確率も1が出る確率も他のそれぞれの数字が出る確率も6分の1なのですが、6・6という印象的な数字がそう簡単に出る訳がないと錯覚をしてしまいます。冷静に考えればそのような訳はないのですし、むしろ、サイコロが歪んでいないという確証がないのであれば、1回目で6が出ている以上、2回目に6が出る確率を6分の1未満と決めつける根拠は少ないと思うのですが…。

 桁が多くなるとゾロ目や並び数字、キリ番はもっと特別な数字に見えます。たとえば、宝くじを買って、数字の並びが「11111」や「12345」、「10000」だったら絶対に当たりっこないと思ってしまいます。「63752」の方が当たりやすそうです。でも、宝くじが「00000」から「99999」までの10万通りあるなら、どの数字が当たる確率も等しく10万分の1です。

 お札にはアルファベットと数字が印字されていて、記番号と呼ばれています。コイン商やオークションサイトなどでゾロ目や12345、キリ番といった記番号のお札が高値で取引されているようですが、どの記番号も同じ確率で生じるので不思議と言えば不思議な話です。

 では、こうした確率的には同じなのに違う値段になることは全くの不合理なのでしょうか? 実際に、ゾロ目などの印象的な記番号が印字されているお札がATMで出てくれば、それをコイン商に持ち込むとお札の額面よりも高値で買い取ってくれるため利益が出ます(お札の状態にもよりますが)。なぜ、コイン商が買い取ってくれるのかと言えば、コイン商自身がありがたがっているかは別にして、ゾロ目等の印象的な記番号に価値を見出して高値で買い取ってくれるお客さんがいると思っているからです。高値で買い取ったお客さんの中には、転売で利益を得られるという資産価値を見込む方もいるでしょう。

『雇用・利子および貨幣の一般理論』で有名な経済学の巨匠ケインズは、金融市場でのこうした心理的な読み合いを美人投票に例えました。その内容を大まかにまとめると、以下のようになります。